桂木家のタブー

筆者は、家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つがそろうと考えている。

紛れもなく桂木さんの母親は、「短絡的思考」で生きている人だろう。裕福な家庭に生まれ、何不自由なく育ったためかもしれないが、生まれてこの方“思慮する”という経験がないのではないかと疑うほどだ。

短絡的思考であるために不倫し、慰謝料を払うために親から引き継いだ不動産などを手放す羽目になり、それが老後破綻につながっていく。もちろん、再婚した継父も、母親ほどではないにしろ、短絡的思考の持ち主だろう。妻のママ友との不倫や、30代で糖尿病になり、乱れた生活習慣を主治医から再三注意を受けたが見直せず、インスリン注射を打つ生活になってしまったことからも一目瞭然だ。

自分の腕にインスリン注射を打つ女性
写真=iStock.com/Caíque de Abreu
※写真はイメージです

また、母親が不倫という秘密を持ったため、桂木家は社会から「断絶・孤立」したような状態になった。母親は不倫という、現実から逃避する行為に走り、その間、娘たちを放置。夫が単身赴任のため、もともと夫婦の時間は減っていたが、母娘で向き合う時間まで不倫の時間に取られ、家族間の情報共有は最低限になった。家族間の結びつきが希薄な家庭は、家族の構成員一人ひとりは社会とつながっていても、家庭としては社会から断絶・孤立したような状態になる。

さらに、不倫に夢中になっていた間は手薄になっていたものの、母親は不倫前や離婚後、異常なまでに娘たちをコントロールし、管理しようとした。帰宅が遅れることは許されないため、桂木さんや妹の交友範囲は必然的に狭まる。桂木さんも妹も、家を出るまで、家庭の中に軟禁されているような状態だったといえよう。

そして現在、母親と継父の生活は経済的に破綻を迎えた。桂木さんはこのことを、妹や夫には相談しているが、それ以外の人には話していないという。そこには「羞恥心」があるのではないか。

「母が、友だちのお母さんとは『何か違う』『何かおかしい』と感じ始めたのは、私が小3くらいの頃です。母の容姿の派手さに目が行き、やがて母の高飛車な性格や、いつも人の悪口を言っていることに疑問を持つようになっていました。というか、私は母にとって、要らない子だと思っていました。友だちのお母さんは優しくてうらやましかったです」

「要らない子ではないか?」と思うほど、母親から虐げられてきた桂木さんだが、なぜ母親から離れようとしないのか。母親を恨んではいないのだろうか。

「できれば、最期まで両親の面倒を見てあげたいと思っています。特に継父には、実子じゃないのに、実子みたいに育ててもらった恩を感じていますし……」

桂木さんが母親から離れられないのは、呪いのように共依存関係が絡みついて離れないために違いない。

しかし桂木さんの母親の人生の、なんと恵まれたことだろう。最期まで両親の面倒を見てあげることが桂木さんの本意であるならば、迷うことなく全うすれば良い。しかし、そのことで自身や現在の家族に不幸をもたらすならば、痛みを伴う決断が必要になるだろう。

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