反対派をあぶり出す粛清が行われているのか

ゾロトフ長官は記者団に対し、「政権の一部がプリゴジンの計画を事前に知っていた可能性がある」と述べ、暗に政権や軍の粛清を訴えた。反乱後、ワグネルのシンパとされる軍幹部13人が尋問を受け、15人が解任されたとの報道があった。首謀者のプリゴジン氏に近かったスロビキン上級大将(航空宇宙軍司令官)も公の場に姿を見せていない。

軍の反対派をあぶり出す粛清が行われている可能性がある。米誌「タイム」(6月27日)は「プーチンは今後、政権の脅威を食い止めた国家親衛隊を重視する。ゾロトフにとってチャンスだ」と述べ、今後の権力構造でゾロトフ長官に注目すべきだと伝えた。

ロシア紙「ベドモスチ」(7月3日)も、「国内の反乱阻止のため、国家親衛隊など国内治安部隊の再編・強化が進んでいる」と報じた。

ゾロトフ長官はウクライナ侵攻作戦で、政権内きっての強硬派だ。プーチン大統領は2022年2月21日、クレムリンに安全保障会議メンバーらを集め、ウクライナ東部ドンバス地方の独立承認問題で一人ずつ意見を表明させたが、多くの幹部が尻込みする中、ゾロトフ長官は「ウクライナでは米国が主人で、キエフの政権は家臣だ。国を守るためには、2つの共和国承認だけでなく、もっと先に進むべきだ」と述べ、事実上の全面侵攻を一人だけ支持していた。

反体制派のナワリヌイ氏を「ミンチにしてやる」

政敵の封じ込めでも、ゾロトフ長官の暗躍が観測される。

禁錮9年の刑で服役中の反体制活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏は、過激派組織設立の新たな罪により、20年への刑期延長が求刑された。プーチン大統領を「臆病で凡庸な人物」「退陣し、別の人物に道を譲れ」と糾弾していた右派軍事ブロガー、イーゴリ・ギルキン氏も、過激行動を呼びかけた疑いで逮捕・起訴された。

反乱収拾を経て、政権側が左右両派の反政府勢力弾圧に乗り出したことを意味する。

ゾロトフ長官は若者に人気のあるナワリヌイ氏を目の仇にしてきた。ナワリヌイ氏の組織が2018年、国家親衛隊の汚職・腐敗疑惑やゾロトフ長官の不動産不正取得疑惑を調査し、ユーチューブで公表すると、長官は「決闘を申し込んでやる。リングでも道場でもどこでもいい」「ミンチにしてやる」とすごんだ。

ギルキン氏の逮捕は、本来の検察局やFSBではなく、大統領に近いバストルイキン委員長率いる連邦捜査委員会が主導した。強権機関の捜査委員会は、プーチン大統領に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)の4人の裁判官を訴追するなど存在感を高めている。