クマに襲われたプーチン氏を助けた

ボディーガード人脈では、トゥーラ州のアレクセイ・デューミン知事の台頭も噂される。決起したプリゴジン氏との交渉では、面識のあるデューミン知事が重要な役割を果たしたとロシアのSNSや独立系メディアが報じた。一部メディアは、同知事を大統領の後継候補と持ち上げた。

デューミン知事は大統領の元ボディーガードで、シベリアでプーチン氏をクマの襲来から救ったエピソードがある。2014年のウクライナ危機で、親露派のヤヌコビッチ元大統領を救出したり、特殊部隊を指揮したりしてクリミア併合を成功させたとされ、大統領の懐刀だ。

プーチン大統領の元ボディーガードで、トゥーラ州知事のアレクセイ・デューミン氏(左)
プーチン大統領の元ボディーガードで、トゥーラ州知事のアレクセイ・デューミン氏(左)(写真=kremlin.ru/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

プーチン大統領は一緒に過ごす時間が長いボディーガードと親しくなり、気に入った数人を地方知事に抜擢し、帝王学を学ばせようとしたが、実績を上げたのはデューミン氏だけだった。

ロシアの政治専門家、アンドレイ・ペルツェフ氏は、米シンクタンク、カーネギー財団のサイトで、「デューミンは反乱収拾で決定的な役割を果たし、大統領側近として特別な地位を固めたようだ」とし、ゾロトフ長官がデューミン知事の国防相就任を働きかけていると指摘した。軍中将の同知事は、国防次官を務めたこともある。

「プリゴジンの乱」で評価を一段と下げたショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長らの処遇も要注意だが、侵攻作戦最中の更迭はリスクを伴う。

「影武者」を運用する謎の組織FSOが暗躍?

ゾロトフ長官やデューミン知事がかつて属した連邦警護庁(FSO)の影響力も拡大している。

反乱直後の6月26日、クレムリンで開かれたシロビキ(武闘派)の幹部会議には、実力者のパトルシェフ安保会議書記、日本通外交官出身のワイノ大統領府長官、ゾロトフ国家親衛隊長官、バストルイキン捜査委員会委員長らに加えて、FSOのドミトリー・コチネフ長官も出席した。コチネフ長官が公の場に登場するのは異例だ。

機密性の高いFSOは、元KGB(国家保安委員会)の要人警護部門(第9局)で、KGB分裂時にFSOとして独立。推定2万人の要員を抱え、米国のシークレットサービス(約6000人)より多いという。

かつて、スターリンの影武者を操った組織で、現在もプーチン大統領の影武者を運用するといわれる。

この幹部会議は、「プリゴジンの乱」を経て今後の政権運営を協議した重要な会議で、この後、プーチン大統領は何事もなかったかのように各種のイベントや地方視察に精力的に登場。国家の安定や指導力を誇示した。

クレムリンの内部情報に詳しい謎のブロガー「SVR(対外情報庁)将軍」は、大統領の影武者がその後、さまざまなイベントにフル回転し、代役の役割を果たしたとしている。