ボディーガード人脈が影響力を強めている

ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の武装反乱事件(6月24日)を経て、クレムリンの権力構造に微妙な変化がみられ、プーチン大統領の元ボディーガードら強硬派の発言力が増大している。

反乱収拾で功績があったビクトル・ゾロトフ国家親衛隊長官やトゥーラ州のアレクセイ・デューミン知事ら元ボディーガードは大統領への忠誠心が強く、政権延命が最大目標となる。

クレムリンは反乱収拾後、左右両派への弾圧を強めており、政権基盤の立て直しに躍起だ。同時に、来年3月の大統領選に向け、プーチン大統領の5選戦略にも着手している。ボディーガード人脈が影響力を強めるなら、ウクライナ戦争の長期化や国内の弾圧強化につながる恐れがある。

ゾロトフ国家親衛隊長官(右)とウクライナの戦況について会談するプーチン大統領=2022年8月30日、クレムリンHPより
ゾロトフ国家親衛隊長官(右)とウクライナの戦況について会談するプーチン大統領=2022年8月30日、クレムリンHPより

正規軍が「マヒ状態」の中、反乱を収拾

「プリゴジンの乱」収拾から3日後の6月27日、プーチン大統領はクレムリン宮の中庭で軍や連邦保安局(FSB)、国家親衛隊の幹部を招いて演説し、「諸君は祖国を混乱から救い、内戦を効果的に阻止した」と称えた。

式典終了後、ショイグ国防相は逃げるようにその場を去ったが、ゾロトフ長官は珍しく記者団と会見し、「反乱軍がモスクワを占領できなかったのは、われわれがすべての兵力を首都防衛に集中させたからだ」と強調。「国家親衛隊が戦車や重火器で重装備することが決まった」ことを公表した。

国家親衛隊は内務省軍などを再編して2016年に発足し、約30万人の要員を抱える大統領直属の治安部隊。プーチン氏がサンクトペテルブルク副市長だった1990年代からボディーガードを務め、忠誠心の強いゾロトフ氏が初代長官に抜擢された。

今回、ワグネル部隊は南部ロストフ州から首都に向けて進撃し、モスクワ南方200キロ地点で取引が成立して撤収したが、独立系メディアによれば、国家親衛隊が200キロ地点に防衛網を敷いていたという。

これが事実なら、クレムリンや正規軍が「マヒ状態」(ワシントンポスト紙)に陥る中、国家親衛隊が危機収拾に動いたことになる。部隊の重武装化は論功行賞であり、下院が速やかに法案を可決した。