ロシア人を分裂させた「クーデター未遂事件」
プリゴジン氏が率いるロシアの民間軍事会社「ワグネル」の部隊が6月23日に決起した「プリゴジンの乱」は、「一日天下」に終わったものの、プーチン体制の脆弱性を示し、政権運営に打撃を与えた。
ロシアの政治学者、アンドレイ・コレスニコフ氏は「蜂起はロシア人の心を分裂させた。クーデター未遂事件であり、皇帝は本物の皇帝ではなかった。もはやロシアはかつてのようにはならない」と指摘した。(米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」6月25日)
反乱事件には依然謎が多く、そこにプーチン体制の意外な弱点が読み取れる。
第1の謎は、ワグネルの部隊が首都進撃を目指した狙いだ。ほとんど勝算のない特攻隊的な決起だったが、「ワグネルに残された唯一の選択肢は、クレムリンを奪取することだった。成功には、モスクワ市民の支持を得る必要があった」(米紙「ニューヨーク・タイムズ」6月26日)といわれる。
「大統領府の占拠」も十分に起こり得た
仮に首都に入城していれば、プリゴジン氏は国防省前で「ショイグ(国防相)は出てこい」「プーチン(大統領)はどこだ」などと演説し、SNSで発信するつもりだったかもしれない。
その場合、南部ロストフナドヌーで多数の若者がワグネルに歓声を上げたように、大量のモスクワ市民が伝説的部隊を見ようと殺到した可能性がある。ウクライナ戦争の長期化で社会に閉塞感が高まり、首都には反プーチンの若者が多い。数万の市民が集まると、弾圧は不可能だ。
国防省からクレムリンは徒歩10分程度で、ワグネルと市民がクレムリンになだれ込み、「クレムリン占拠」が起こりかねない危険なタイミングだった。