決断力や政治的カンが衰えている
第4に、プーチン大統領の役回りも謎だ。軍事ジャーナリストのボリス・グロゾフスキー氏は、「プーチンは反乱に際して、最高司令官らしく振る舞わなかった。決起が始まると、モスクワ北部のバルダイ公邸に移動し、危機が収まると戻ってきた。最高指導者の振る舞いではなかった」と伝えた。
大統領は国民向けのテレビ演説を行い、「これは反乱であり、裏切り行為だ」とし、厳罰に処すと強調しながら、プリゴジン氏らが無罪放免となった経緯も不透明だ。
そもそもプーチン氏が長年の部下、プリゴジン氏の奔放な行動を容認してきたことが、今回の反乱につながった。ワグネルと国防省の対立は半年前から先鋭化していたのに、大統領は手を打たず、5月には東部バフムトを制圧したワグネルを称賛し、勲章を贈った。往年の決断力や政治的カンが衰えてきた印象だ。
ワグネルの首都進撃が始まると、マントゥロフ副首相やオリガルヒのウラジーミル・ポターニン氏らがプライベート・ジェットでモスクワを脱出したことも判明した。ボロジン下院議長は「怯えた政府要人が国外に脱出した」と批判したが、エリートのプーチン離れを示唆した。
ロシアは9月に統一地方選、来年3月に大統領選を控えて、政治の季節を迎える。エリート層が、威信低下と衰えの目立つプーチン大統領をさらに6年間担ぎ続けるのか。クレムリン奥の院で微妙な暗闘が起きる可能性もある。
「プリゴジンが核兵器奪取」という予測も
第5の謎は、反乱収拾後、ロシアのメディアやSNSでは政権批判が広がり、言論統制が緩んできたことだ。
国営テレビは大統領の「賢明で勇気ある行動」を讃えたが、有力紙の「独立新聞」は、「正真正銘の反乱だった。前代未聞の挑戦で、システムが機能しなかった。クレムリンは相変わらず、すべての当事者に宝石を配るといった古い手法で解決した」と政権に厳しい論調を掲げた。
ロシアの記者・評論家らのSNS発信も言いたい放題だ。
「反乱の第2部が必ずあると予想している。亡命するプリゴジンはベラルーシに配備されるロシア軍の核兵器を奪い、クレムリンへ核攻撃の恫喝を行い、ショイグらの解任を迫るのではないか」(アントン・ゲラシチェンコ氏)
「プーチンには、シベリア・アルタイ地方のガスプロム保養所あたりで隠遁生活に入ってもらいたい」(アナスタシア・キリレンコ記者)
「軍部隊の大半はウクライナにいて、首都が無防備であることが示された。NATOの脅威を考慮すれば、これは国家指導部の犯罪的怠慢だ」(アッバス・ガリャモフ氏)