ワグネルの進撃を放置したロシア軍の無気力

第2に、ワグネル部隊がほとんど抵抗を受けずに800kmを快進撃し、それを放置した軍の無気力、無関心も謎だ。

プリゴジン氏が南部軍管区司令部の幹部2人を拘束し、「ショイグを出せ」と言うと、幹部は「どうぞお持ち帰り下さい」と笑顔で応じるシーンが放映された。反乱軍と対峙たいじする緊張感はまるでなかった。

独立系メディアによれば、モスクワから200km地点に防衛網が敷かれたため、ワグネルは進撃を躊躇し、取引成立後引き返したが、首都防衛に当たったのは軍ではなく、治安部隊の国家親衛隊だった可能性がある。

プリゴジン氏と親しかったスロビキン上級大将が事前に計画を知っていたとして取り調べを受けた。政権に近い政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフ氏は「プリゴジンに近かった者は全員調査されている。数百人だ」と明かした。政権は粛軍や幹部人事に乗り出す可能性があるが、軍内部にはワグネルのシンパが多く、戦時下ではリスクを伴う。

なぜベラルーシ大統領が収束に当たったのか

第3に、ベラルーシのルカシェンコ大統領が前面に出て危機を回避したとするストーリーにも疑問が残る。同大統領は27日の演説で、プリゴジン氏に6、7回電話し、「道中で虫けらのように叩きつぶされるだけだ」「ベラルーシで安全を保証する」と説得し、撤収させたと述べたが、国家的危機の解決を外国首脳に丸投げするのは不可解だ。

右派ブロガーのドミトリー・デムシキン氏はブログで、「6月24日に限っては、ルカシェンコがロシアの法執行機関の最高責任者だった。わが大統領がどこにいたのか知らないが……」と皮肉った。

独立系メディア「メドゥーザ」はクレムリン情報筋の話として、「最終的な交渉は、ワイノ大統領府長官、パトルシェフ安全保障会議書記、グリズロフ駐ベラルーシ大使らが行い、前面に出たのがルカシェンコだ」と報じた。

政権の内情に詳しい謎のブロガー、「SVR(対外情報庁)将軍」は、「ルカシェンコの説明は90%嘘だ。すべての取り決めはパトルシェフが調整し、プーチンは危機の解決から身を引いた」「パトルシェフはルカシェンコに演説では自分の名前を出さないよう頼んだ」と投稿した。

収拾劇では、デューミン・トゥーラ州知事、ゾロトフ国家親衛隊長官が暗躍したとの情報もある。大統領のボディーガード出身のデューミン知事は、評価を落としたショイグ国防相の後任説も出始めた。収拾で功績のあった面々が政権内で影響力を高める可能性がある。