「お家騒動」も自身の未熟さゆえ
しかし、そのなかで私が大きな挫折を経験することになりました。2012年のことです。前年、会社では数十億円規模の設備投資を行ったのですが、その際に見込んでいたブナシメジの栽培がうまくいかなかったのです。新しい設備での商品の形が悪く、バイヤーさんが取り扱ってくれない。設備の入れ替えで生産量と利益を増やす計画が失敗し、会社が大赤字に転落してしまいました。
時を同じくして、私は雪国まいたけでの「お家騒動」によって社長の座を降ろされることになりました。新しく雇った役員たちが私の追い落としを諮ったからでした。
その経緯については言いたいこともたくさんありますが、今となってはやはりそれも私の「未熟さ」がもたらした出来事だった、と思うしかないと考えています。研究開発の担当者の言葉を信じ、設備投資を決断したのは私であり、新たな役員を事業拡大のために迎え入れたのも私であるのだから、と。
常に自らの未熟さを自覚する
2012年、「雪国まいたけ」は創業以来、初めての赤字になった後、2015年に米国のファンドによるTOBが成立しました。私は会社を出ていくことになりましたが、その後、株を売ったお金を元手にカナダに渡って始めたのが、「将軍まいたけ」という会社です。カナダのオンタリオ州の郊外に1300平米の栽培施設を建て、まいたけの中でも最高の「黒まいたけ」を北米の市場で販売しています。
人間というのは、「失敗」をせずに何の不自由もなく人生を送っていると、「自分の行動は全て正しいんだ」と思いがちです。しかし、私は今の自分は未熟なんだ、未完成なんだと思い、世の中にはもっと素晴らしい能力を持つ人がいるのだから、もっと頑張らなければならないという気持ちでいるようにしています。
常に自らの未熟さを自覚し、「失敗」をしたら一つ成長した、勉強したと考える。人生や事業はその積み重ねであり、苦しさや失敗をバネにしてきたことが、常に今の自分の土台になっているのだと思うのです。