大手運送会社の働き方改革で手薄になった時間帯を担う

作業は10分弱で終わった。軽バンに積み込んだのは20個足らず。宅配便の配達業務にしてはやけに少ない。しかし、杏子さんにその理由を聞いて合点がいった。

「車両に積んだのは午前7時半から10時半までの3時間に配達する荷物だけ。仕事の都合などで、日中はもちろん、夜の時間帯でさえも荷物を受け取ることができない人たちのために、通勤前の朝の時間帯に荷物を届けたり、預かったりするのが、ここでの私の仕事」

杏子さんに集配業務を委託している元請けの宅配便会社は数年前に発足したばかりの新興企業だ。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便といった宅配便大手の既存配送網ではカバーしきれていない早朝の時間帯(午前6時~午前10時)や深夜の時間帯(午後8時~午後12時)に発生する集配ニーズへの対応力を武器にしている。

ネット通販の成長で需要が急伸し、慢性的な配達ドライバー不足に陥った宅配便市場では、長時間労働や「サービス残業」を強いられるなど大手のドライバーたちの労働環境が悪化した。その過酷な労働実態が社会問題化されたのを受けて、宅配便大手各社はドライバーの「働き方改革」に踏み切った。

「働き方改革」ではドライバーの業務負荷を軽減するため、荷物の受け入れボリュームを調整する総量規制が導入されたほか、ドライバーの休日や勤務中の休憩時間の確保を徹底するため、集荷や配達の業務を行う時間帯にも制限が設けられた。

都市部の配達すきま需要を引き受けて成長

杏子さんが所属する宅配便会社は、大手の「働き方改革」によって生じた“空白の時間帯”をビジネスチャンスと捉えて、早朝や深夜の時間帯にドライバーを厚めに揃える集配システムを構築した。

その戦略が奏功し、現在では首都圏や関西圏の主要エリアを対象に、オフィス向けサプライ品やファッション通販商品を配達したり、クリーニング品やスーツケースなどを回収・配達するインフラとして利用され、取扱個数を伸ばしている。

同社の集配業務の担い手は、中小零細規模の軽トラ運送会社や軽トラの個人事業主たち。早朝や深夜の時間帯のみ仕事を引き受けるパートタイム勤務も可能なため、宅配便大手のドライバーたちが“もぐりの副業”として勤務時間外や休日に配達業務に従事しているケースもかなりある。