ライフステージの変化に定着率が左右されてしまう
しかし、懸念もある。「女性には結婚、出産、子育て、家事などがあり、せっかく仕事を覚えてきたのに、家庭の事情で辞めざるを得なくなることがよくある。ドライバーとしての定着率がどうしても低くなってしまう」と杏子さん。
女性中心の職場を管理していくことの難しさは、中洲や銀座で働いていた時代に痛いほど経験している。それだけに、宅配便市場で女性ドライバーの需要があることはわかっていても、すぐに行動に移すことはできないと本音を漏らす。
朝と夜の数時間働く勤務形態は女性に向いている
配達から運転席に戻り、次の配達先に向かうまでの車中で、仕事やプライベートの話を根掘り葉掘り聞いていたら、あっという間に早朝分の配達が終わっていた。
この日の不在は1軒のみ。遅配はゼロ。事前の準備を忘れていたのか、荷物を引き取る際に玄関先で5分ほど待たされたことを除けば、とくに大きな問題もなく業務を遂行できた。
午前11時。配送デポに帰還。集荷した荷物を降ろして午前中の任務は完了した。いったん帰宅して昼食を済ませたり、炊事や掃除といった家事をひと通りこなしながら数時間の休憩を取る。その後、午後8時から10時までの2時間、再びハンドルを握る。
オンとオフを繰り返す杏子さんの働き方は、連続して一気に長時間乗務するよりも、むしろハードなのかもしれない。それでも「トイレを我慢しなくていい。こまめに着替えもできる。ベランダに干した洗濯物も取り込める。女性にとっては、途中で数時間の休憩を挟む勤務スタイルのほうが便利な面がかなりある」(杏子さん)という。
配送デポから自宅に戻る道中に、昼食を購入するために立ち寄る、最近お気に入りの弁当屋がある。手頃な価格なのにボリューム満点なうえに、添加物を使っていない。「とてもヘルシーでオススメ」というので、私も試しに購入した。
肉系の弁当を手に取ってレジで会計を済ませていると、杏子さんから饅頭をひとつ手渡された。それもこの店のイチオシだという。「饅頭は早朝から頑張って働いた自分へのご褒美。お昼にデザートとして食べるのをいつも楽しみにしている」と杏子さん。その日一番の満面の笑みを浮かべた。
言うまでもなく、糖質はダイエットの大敵だ。しかし、軽トラドライバーの仕事と家事との両立で、ハードな毎日を過ごしている杏子さんからすれば、私とは違って、饅頭1個分のカロリーなんて気に留める必要などないのかもしれない。