月収が70万円下がっても「軽トラ業は魅力」

“稼ぎ”という点では、水商売のほうが軽トラ業よりもはるかに条件はいい。実際、中洲時代にはどんなに景気が悪くても月収が100万円を下回ることはなかった。銀座時代もしかり。それに対して、軽トラドライバーとしての杏子さんの現在の月収は、「時給2500円×1日5時間×週6日」のフル勤務で計算しても30万円程度だ。

それでも軽トラ業に魅力を感じているのは「私のような素人でも、物流業界が今後も伸びていくことは容易に想像できるし、何よりも仕事としての安定感がある」(杏子さん)からだ。

新型コロナの影響で企業活動が停止しても、物流は動き続けている。とりわけ宅配便は、巣ごもり消費によるネット通販の拡大で荷動きが堅調だ。杏子さんが言う通り、確かに今のご時世では堅い商売なのかもしれない。

水商売時代の仲間たちは新型コロナによる店の営業自粛で収入がゼロに落ち込んだ月もあった。そんな彼女たちは夜の蝶から軽トラドライバーへ“華麗なる転身”を遂げて、生活が安定している杏子さんのことを羨ましがっているという。

いずれは女性ドライバーだけの配達チームで起業したい

ただし、軽トラドライバーの仕事は決して楽とは言えない。男性でも数日間で音を上げてしまうことが多い。体格や体力の劣る女性が長時間続けていくのは容易なことではないはずだ。

ハンドルを握り始めて1年が経過した杏子さんは、最近では軽トラビジネスで将来に一旗揚げる夢も持つようになった。女性ドライバーだけで構成する配達チームを発足させたいと考えている。

自宅で荷物を受け取る女性は口には出さないが、女性ドライバーによる配達を希望している。とくに深夜帯は防犯上の観点からも女性ドライバーに訪問されるほうが安心できる。日中も同じ女性同士なら素っぴん(ノーメイク)を晒すことへの抵抗感が和らぐ。“在宅なのに不在”がなくなり、荷物の再配達率を改善できる。杏子さんはそう踏んでいる。

通販商品の軽量化が進んでいる。コロナ後は対面での受け渡しが減り、玄関先などに荷物を置く「置き配」の件数が増えるなど、業務負荷が小さくなっていることも、宅配の現場に女性が進出する追い風になる。

スーパーのレジ打ちなど他のパート・アルバイト仕事に比べれば、軽トラドライバーの時給単価は高い。車両は小回りが利くため、女性でも運転しやすい。その魅力が知られていくことで、軽トラ業に挑戦する女性も増えていくだろう。「女性ドライバーだけの配達チーム」を組織化するという夢も現実味を帯びてくる。