3時間で7500円、初心者向けの“ゆるい”仕事
杏子さんが軽トラのハンドルを握り始めたのはおよそ1年前。軽トラ業を営む知人の男性に勧められて、この世界に飛び込んだ。敬意を込めて「先生」と呼ぶ知人男性から軽バン1台を譲り受けて、最初にスタートしたのは早朝配達の仕事だった。
杏子さんにとって好都合だったのは2時間や3時間という短時間でも仕事を引き受けられること。常勤ではないものの、当時の杏子さんには他にも仕事があり、軽トラ業はあくまでも副業と位置づけていた。
報酬は3時間で7500円。車両は持ち込みで燃料費も自己負担だが、時給単価としては悪くない。配達個数のノルマや再配達を課せられることもない。先生曰く、「大きく稼げるわけではないが、初心者にはもってこいの“ゆる~い”仕事」。その言葉が未経験者である杏子さんの背中を押した。
玄関のドアが開いた瞬間、無数の虫が…
先生を助手席に迎えた同乗研修を経て、1週間後には独り立ちした。しかし、スタートした当初は苦労の連続だった。
元請けから支給されたスマホの配送管理アプリを使えば、ナビが配達先までの走行ルートを正確に案内してくれるという触れ込みだった。ところが、目的地周辺には辿り着くものの、ピンポイントで目的地を示してはくれない。車両を停めて荷物を抱えながら10分近く配達先を探し回ったり、配達先に電話を入れて所在地を確認したりすることもよくあった。
ある集荷先では、依頼主から「これを持っていけ」と足で荷物を押し出されて、嫌な思いをしたり、配達先で玄関のドアが開いた瞬間に無数の虫が飛び出してきて、全身に鳥肌が立ったこともあった。配達中にトイレに立ち寄る回数を減らそうと、夏場に水分補給をセーブしたところ、軽度の熱中症に罹ってしまった。
仕事に慣れてきたのは3カ月が過ぎた頃だった。担当するエリアの地理に詳しくなり、ナビに依存しなくなった。繰り返し訪問する集配先の所在地も覚えた。作業の生産性は徐々に向上した。それに伴い、ユーザーが希望する時間帯を超えてしまう遅集配も少しずつ減っていった。