「0か1か」の間にグレーの選択も

ブランドビジネスでは、相手側に主導権があることが大半だ。こちらに都合がいい文言など、削除されるだけではなく、むしろ弱点を教えてしまうことになる。だから、法務の面々には「交渉で不利な立場の場合、白黒をはっきりさせず、グレーな表現にしよう。そうしておけば、いざというときに争う余地がある」と指摘してきた。

いまの世の中、デジタル的に「1か0か」と問う例が多いが、答えは1と0の間にいくつでもあり得る。ビジネスでも同じ、グレーという選択もある。そんな思考が、幾多の経験から身について、「予習型経営」の土台になっている。

「愛爵禄百金、不知敵之情者、不仁之至也」(爵禄百金を愛みて敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり)――ほうびに与える爵位や俸禄、あるいはわずかなカネを惜しんで、敵の情況を知ろうとしない者は、多くの死傷者を出してしまうことになる慈しみに欠けた人間だ。そんな意味で、中国の古典『孫子』にある言葉だ。その教えは、「アルマーニ」を契機に浸透させた情報収集や「予習型」を重視する岡藤流に重なる。

40代でもう一つ、胸を張れるのが、量販店向けブランドの開発だ。91年から「ビバリーヒルズ・ポロクラブ」「コンバース」「U.Pレノマ」と、次々にヒットさせた。こちらは、国内で婦人服や子供服をつくり、スーパーなどに卸している企業の経営者で、量販店の内情に詳しい人の情報がきっかけだ。

ブランド品は、スーパーで売るとイメージが悪くなるとして、輸入代理店が扱わせない。でも、量販店では集客のために、ぜひほしい。やむを得ず、第三国で買い入れてくる並行輸入をやってみるが、偽物をつかまされ、かえって評判を落とす。人気ブランドで、少し安めのセカンドブランドを量販店に供給できれば、ものすごくニーズがあるはずだ。

そんな話だった。ブランドビジネスの表通りでは、こういう情報は入りにくい。取引規模が大きくはないお客でも、いけば、ビジネスの種にいくつも出会う。「現場主義」を唱えるのにも、そんな理由がある。

社長になって、会議の回数も種類も増えた。長年、携わってきた「繊維」とは、全く違う世界もある。でも、予習でこなす。社内のことでも社外のことでも、前もってよく調べてから、臨む。いわば「知敵之情」だ。準備が十分であれば、説明を聞いて、すぐに飲み込める。後で勉強をし直すよりも、ずっと楽だし、決断も早く下せる。

予習は、自宅の風呂場やトイレでも重ねる。週末は考えたことをメモにして、月曜日の朝に出社すると、担当者を次々に呼んで指示を出す。情報を集めて事前に選択肢も考えておくので、会議や打ち合わせが終われば、「後で読み直そう」と書類を積んでおく必要はない。懸案事項があっても、考え抜いた結果は月曜日にすぐ指示してしまうから、参考資料も置いておく必要はない。

だから、机の上は、40代のころからいつもきれいに片づいている。社長室でも、それは同じだ。