2012年7月17日(日本時間)にプレジデント連載「コヴィー博士のビジネス問答」の執筆者であり全世界2000万部の『7つの習慣』著者であるコヴィー博士が亡くなった。博士の功績を称え、ここに追悼する。

自殺も考えたひどいいじめ

「いじめが原因で自殺をしてしまった大津の中学生の話を聞き、同じようにいじめを受けた人間として居たたまれない気持ちになりました。いじめと自殺との因果関係を曖昧にしようとする教育委員会や学校の教職員に対しては強い憤りを感じます。もし彼自身が変わることができれば、違った未来を得る可能性があったと思うと残念でなりません」

埼玉県内の大学に通うS・Y君は、ときおり目の前のテーブルに目線を落としながら訥々と話す。一つひとつ言葉を丁寧に選んでいるようだ。S君は小学校3年生のときに転校した先で起きたある出来事がいじめのきっかけになった。クラスメートの女の子の下駄箱に、その子の悪口が書いてありそれを書いたのがS君とされた。しかし、S君にとってはまったく身に覚えのないことだった。

「それからというもの『Sの呪いがついたから触るなー』と病原菌のような扱いをされたり、ありもしないことをいいふらされたりしました。さらに中学生になってからは、呼び出されて殴る蹴るの暴行を受けたり、『おまえ、見ているだけでむかつくんだよな』『死ね』と言葉の暴力もエスカレートする一方でした。しかし、僕はひたすら耐え続けるしかなかったのです。自殺を考えたこともあります」

そんなS君に転機が訪れたのが中学3年生のとき。両親に勧められて入った学習塾では、通常教科のほかに別のカリキュラムが組まれていた。それはスティーブン・R・コヴィー氏の『7つの習慣』を日本の小・中・高校生向けにアレンジし直した人間性教育プログラム「7つの習慣J」に基づいた指導だった。周囲の環境に負けない力を子どもたちに身につけさせるためで、その指導を受けるうちに塾のM先生との間で信頼関係が生まれ、S君は両親にもいえずにいたいじめのことを次第に相談するようになった。