2012年7月17日(日本時間)にプレジデント連載「コヴィー博士のビジネス問答」の執筆者であり全世界2000万部の『7つの習慣』著者であるコヴィー博士が亡くなった。博士の功績を称え、ここに追悼する。

博士のことを地球上で
一番理解しているのは私だと思う

『7つの習慣』の中に次のような話がある。クラム・チャウダーが美味しいと評判の店があった。昼食の時間になると、毎日お客さまで大行列ができるほどだった。経営者は、欲を出してもっと儲かる店にしようとした。クラム・チャウダーの具を減らし、全体的に薄めて売ることで、仕入れの値段を落としたのだ。

ワタミ取締役会長 渡邉美樹氏

最初は原価を落としたことでコストが下がり、一時的に儲けが出た。ところが、味が落ちたことに気付いたお客さまは徐々に店へ来なくなり、結果的に評判が落ち、売り上げはほとんどなくなってしまった。『7つの習慣』を否定的に見る人は、「この本に書かれていることは、あまりにも当たり前すぎる。こんなことは誰だって知っている」と言う。しかし当り前だと思っていても、それを実践できるかどうかはまったく別のことではないだろうか。

クラム・チャウダーの店の話でいうと、何を一番大切にしなければならないのかというと、お客さまである。お客さまが店に来てくれるから、利益が出て株主さまにも従業員にも利益を還元できる。優先順位でいけば、経営者である自分の利益は一番最後に考えなければならない。

これは理屈では誰でもわかっていることだ。けれども人間には欲があるので、当り前のことができなくなる。仕入れの値段を落として味が落ちれば、お客さまが離れてもしょうがない、とわかっていても、「もう少し原価を落としても、来てくれるだろう」と欲を出し、自分の懐にいくら入るのかを計算してしまう。欲との戦いで、その戦いに勝つにはしっかりとした人格が備わっていなければならない、それがこの本の主張なのだ。