大津市で11年10月、中学2年生の男子生徒が自殺した問題が波紋を広げている。同校生徒へのアンケートによると、男子生徒は同級生から廊下で飛び蹴りされたり、自殺の練習をさせられるなどのいじめを受けていたが、教諭は「いじめではなくけんか」と結論づけた。

いじめが放置されやすいのは、ただの仲間はずれから、殴る蹴るの暴行まで、いじめという言葉でひとくくりにされていることと無関係ではないだろう。殴る蹴るは、いじめという言葉で片づけられない犯罪行為。学校内で起きたことでも、人を殴れば暴行罪(刑法208条)、怪我をさせれば傷害罪(刑法204条)であることを示し、毅然とした対応を取るべきだ。

かつあげも立派な犯罪だ。暴力や脅迫によってお金を脅し取れば恐喝罪(刑法249条)。「借りただけ。あとで返すつもりだった」という言い訳は通用しない。暴力的な手段を用いて脅したなら、もらおうと借りようと恐喝罪が成立する。

上履きや教科書を隠された場合はどうか。人の物を持ち主に無断で動かせば窃盗罪(刑法235条)といいたいところだが、これに関しては単純にいかないようだ。刑事事件を数多く手掛ける長谷川裕雅弁護士は、こう解説する。

「刑法には、構成要件として、外形的な事実を認識しているだけでなく特別な内心の存在が必要とされる犯罪があります。窃盗罪も、その一つで、いやがらせ目的で物を隠すだけでは、窃盗罪に問うのは難しい」

必要とされる意思の内容は2つある。「権利者を排除して他人の物を自己の所有物として振る舞う意思」と、「経済的用法に従い利用または処分する意思」だ。

前者が必要とされているのは、一時的に自転車を借りた場合のように、不処罰とされる利益窃盗と可罰的な窃盗罪とを区別するためだ。たとえば学校でも消しゴムを一時的に拝借しただけなら、窃盗罪にならない。

では後者の「経済的用法に従い利用または処分する意思」とは、どういう意味なのか。長谷川弁護士は、下着泥棒を例に解説する。

「下着の経済的用法は一般的に、はくことです。しかし下着泥棒の多くは、自分ではくのではなく、自慰行為やコレクションなどの目的で盗んでいます。匂いを嗅ぐために盗んだ場合、本来であれば経済的用法にあたらず、窃盗罪は成立しないと考えることも理論上は可能なのです。しかし実際の裁判では、何らかの利益を得ていれば経済的用法に従って利用しているとして窃盗罪を成立させています」

では、いじめで上履きや教科書を隠すのは、窃盗になるのか。

「いやがらせ目的なら、経済的用法に従って利用する意思があったとはいえません。また隠すことによって他の利益を得ているとも考えにくい。理論的にも現実的にも、窃盗罪は成立しないのではないでしょうか。ただ、いやがらせで人の物を勝手に持っていけば器物損壊罪(刑法261条)などの毀棄罪(ききざい)になる場合があります。窃盗罪が10年以下の懲役または50万円以下の罰金であるのに対し、器物損壊罪は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料。器物損壊罪のほうが法定刑は軽いですが、これも立派に刑法に触れる行為です」

いじめという言い方で、実態を覆い隠してはいけない。どんなことをすれば、どのような罪に問われるのか。学校でもきちんと指導するべきだと思うが、いかがだろうか。

(図版作成=ライヴ・アート)
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