「偽装認知」の話は禁句

2013年、名古屋市内のフィリピンパブで、フィリピン人男性との間に生まれた子供を、見ず知らずの日本人男性に認知させる「偽装認知」という方法で、日本に来ていた女性に会ったことがある。彼女もマネージャーと契約を結んで、その手引きで子供を日本人男性に偽装認知してもらっていた。

日本に来たばかりの頃は、片言の日本語で一生懸命話していた。偽装認知で日本に来たことも教えてくれた。何年か経つと、彼女は客を沢山持ち、売り上げを上げ、契約の途中でマネージャーに金を払い契約を終えた。そこから店のママをやったりと、フィリピンパブ業界の中で成功を収めている。

その頃から、偽装認知しているという話をしなくなった。子供は「日本人」として小学校に上がり、今も日本で生活をしている。

田中さんの母も、今では「その話はしないで」というそうだ。

日本で生活の基盤を作り、これからも日本で生きていく彼らにとって、その話は禁句なのである。

日本で仕事を得るための「抜け道」

田中さんは、自身の出生の際の偽装結婚を理由に逮捕されるなどの可能性があるか、不安になり、弁護士に相談したという。

中島弘象『フィリピンパブ嬢の経済学』(新潮新書)
中島弘象『フィリピンパブ嬢の経済学』(新潮新書)

「僕の日本国籍が剥奪される可能性はないみたいです。でも母は、もしかしたら捕まるかもしれないと」

田中さんの母が、父がしたことを、犯罪だから「悪い」と断言することは簡単だ。

日本で仕事をしたい、生活したいと思っても、日本の厳しい入国管理制度の中では、在留資格を得るのは難しい。だが入国すれば、仕事先はある。企業も働き手を求めている。だから、こうした抜け道を使う外国人も当然出てくる。

日本にフィリピン人が増えてから30年以上がたった今、こうしたことが現実に起き続けている。

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