日本語の苦手な外国人が日本で生活するのは大変だ。フィリピン人の妻ミカさんを持つ文筆家の中島弘象さんは「子供が産まれ、妻は行政からさまざまな支援を受けたが、漢字の読み書きができることが前提になっている。『ガイジンは自分で頑張るしかない』と放置するままでいいのか」という――。

※本稿は、中島弘象『フィリピンパブ嬢の経済学』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

児童手当見直しイメージ
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役所から届く書類は全て日本語

子供が生まれると、行政から様々な支援が受けられる。乳幼児健診や予防接種、子供の医療費は基本的に全て無料だし、児童手当としてお金まで貰える。

「日本すごいね。子供のために色々やってくれる。本当にありがたい」

ミカはこうした日本の手厚い制度に驚き、喜んでいた。

しかし、素晴らしい支援サービスがあっても、それを知らなければ利用することは出来ない。そうした情報の多くは日本語で書かれている。

「私、漢字読めないから、お願いだから読んでよ」と、役所から届く子育てに関する書類を渡される。

子供に関する書類は僕も初めて見るものばかりだから、何度も読まないと理解できない。

いつ、どこで、何が行われて、何を持っていかなければいけないのか。

日本で生まれ育っていればなんとなく想像できるかもしれないが、フィリピンで生まれ育ったミカにとっては、例えば健康診断を受ける場所が「保健所」とあれば、まず日本の「保健所」というものがどういうものか、ということから理解しなければならない。

書類を僕が読み、口頭でミカに伝えるが、そもそも僕が充分理解しておらず、説明不足になってしまうこともあったし、説明してもミカが理解できなかったりすることもあった。

外国人にとってはハードルの高いことばかり

日本語以外の問題もある。

会場までの移動手段、日本人職員とのやり取り、日本の子育て支援の仕組みの理解など、外国人のミカが1人で子育てをするには難しい事ばかりだ。

当然、日本人の夫である僕がサポートをしなければならないのだが、健診や予防接種は平日に行われることが多く、その度に会社を休む事も出来ない。

それ以外にも、子供が発熱したりすると仕事中に「今日何時に帰ってくる? 子供の熱が高いから病院行きたい」と連絡があったり、朝、会社に行こうとする時に「子供の体調がおかしいから病院行きたい。今日会社休める?」と急に聞かれることもある。

「ちょっとした熱だけで休めないよ」と僕が言うと、

「私のことだったら我慢するけど、子供のことでしょ? 心配じゃないの?」と言われる。

彼女が自分で病院を予約して行くことができれば解決することも、全てサポートしなければならなかった。