医師は早口で難しい単語を使い、問診票は日本語

「ミカが自分で子育てやれるようにならないと困るよな」と母に愚痴ると、

「私もはじめはミカちゃんが1人でなんでもできるようにならないと困るよって思ったよ。でもミカちゃん連れて行って思ったけど、いろんなことが外国人にとって親切じゃないもん。ミカちゃん1人で子育てなんて無理だよ」

そう言って、僕の母がミカの子育てをサポートしてくれた。

健診や予防接種、子供の体調が悪い時も、パートを早く切り上げて病院に連れて行ってくれる。いつもミカの側にいてくれる母だからこそ、外国人が日本で子育てをする大変さがわかったのだという。

「病院でも先生早口だし。ミカちゃん日本語わからないのに、日本語の問診票渡されて『書いておいてね』しか言われないし。この前なんて、ミカちゃんの順番ずっと抜かされてて私が看護師さんに言って気づいてもらえた。ミカちゃんだけだったらわからないことだらけだよ。そういうの近くで見てたら私がミカちゃん守らないとって気持ちになってきたもん」

ミカは一生懸命子供の症状を話すが、医師には伝わらず、医師が話す言葉もミカには通じない。お互いに認識が違う状態で話が進んでしまう。ミカに赤血球や白血球という日常で使わない単語を言っても、はじめて聞く言葉ばかりでは理解のしようもない。

日本語の健康診断シート
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

「お母さんいてほんとに助かった。お母さんいなかったら私なにもできないよ」

ミカはそう言っていた。

親切な保健師が渡した冊子も日本語だった

新生児健診は、産後しばらくして、保健師が家まで様子を見に来ることになっていた。まだ姉の家に住んでいたのだが、あまりに住んでいる人が多すぎたので、僕の母がミカと子供を車で迎えに行き、僕の実家で保健師の訪問を受けることにした。

実家で待っていると、インターホンが鳴り、玄関に女性の保健師が2人並んでいた。

「何か困ってることありますか? 子育て大変ですか?」と、ミカと赤ちゃんの様子を見ながら親切に聞いてくれた。

ミカが子供の様子、自分の体調や気持ちのことを伝える。

「問題なさそうですね。何かあったらここに電話してくださいね」子育て相談の連絡先が書いてある冊子を渡して帰って行った。

保健師が帰った後、冊子を見ても、日本語で書かれていてミカは読めない。

「読んでって言っても、ミカちゃんこれじゃわからないね」と母が笑いながら言う。

「はい、お母さん。漢字わからないです」と苦笑いしながら答えるミカ。

「大丈夫。私が読んで教えるから」

保健師は親切に対応してくれたが、ミカは日本語で書かれた書類を読むことができない。もし困ったことがあっても、冊子を読んで連絡することは難しかった。