「この書類を半減させるのがあなたたちの仕事じゃないんですか」

杉並区立和田中学校の校長時代、池坊保子文部科学副大臣の配下に銭谷眞美初等中等教育局長(のちの文部科学事務次官)がおられた頃、池坊さんが主宰した審議会に、学校に届く書類を1週間分束にして持ち込んだことがある。

「こんなに書類を学校現場に押し付けておいて、教員にもっと児童生徒に寄り添った指導をなんてよく言えますね。いじめの対応を丁寧にせよと命じるなら、まず、この書類を半減させるのがあなたたちの仕事じゃないんですか」

と直談判したのだ。実際には、和田中の校長宛に届いた書類2週間分を2つの束にして、池坊さんと銭谷さんの2人に渡した。

PTA会長も経験されて、けっこう現場をご存じだった池坊さんが偉かったのは、事の重大さにすぐ気づき、銭谷氏に即時対処を要望したことだ。直後に文科省内に文書削減プロジェクトチームができた。ただしこれが残念ながら、功を奏するまでミッションを全うできなかったことは、今日の現場が再び文書だらけになっていることからも見てとれる。

文書の大幅削減は教育長の判断でできる

一方、私は杉並区教育委員会にも、同じ要求をした。

藤原和博『学校がウソくさい』(朝日新書)
藤原和博『学校がウソくさい』(朝日新書)

当時の井出隆安教育長は素早く対処された。しばらく、飛び交う文書が減ったのは誰の目にも明らかだった。まあ、井出さんの退任後は元に戻っちゃっているのだろうが。

このエピソードの顛末は笑い話になる。実は、私が文科省に持ち込んだ100枚×2束(2週間分)の文書は、ほぼ収受文書と現場に降りてきたアンケートの束だった。しかも、コピーする時間がなかったので、原本を持っていったのだ。今もって、それらは返却されていない。

要は、それでも学校経営にとって、何の支障もなかったわけだ。つまり、ほとんど無意味な文書だったという証拠なのである。

強調したいのは、文書の大幅削減は、法改正することなく教育長の決断でできるということ。問題は、教育長がこのリスクを負うかどうかだけだ。

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