芸能人がAOや推薦入試で名門大学に合格するケースが相次いでいる。大学ジャーナリストの石渡嶺司さんは「ネット上では『AO・推薦だから簡単』という批判が目立ったが、それは20年以上前の認識による誤ったものだ。過去の経験やイメージで判断しないほうがいい」という――。

鈴木福は慶応、本田望結は早稲田に合格

芸能人の大学進学は今も昔も話題となります。良くも悪くも。今年、2023年入学だと、俳優の芦田愛菜さん、鈴木福さん、本田望結さんの3人の進学先が話題となりました。芦田さんは慶応義塾女子高校から内部進学で慶応義塾大学法学部に進学。鈴木さんは慶応義塾大学環境情報学部(SFC)にAO入試で合格。本田さんは早稲田大学社会科学部に自己推薦入試で合格しました。

2020年1月2日、「J-CULTURE FEST/にっぽん・和心・初詣」で司会進行を務めた鈴木福さん
2020年1月2日、「J-CULTURE FEST/にっぽん・和心・初詣」で司会進行を務めた鈴木福さん(写真=YamatoHozumi/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

芦田さんは慶応義塾大学医学部への進学も噂されたほどでした。しかも、慶応義塾女子高校は進級も成績が厳しく見られます。内部進学はなおさらであり、それだけ勉強をしてきた、との評価がもっぱらです。一方、鈴木さんはAO入試、本田さんは自己推薦入試での合格です。

しかも、鈴木さんの出身校である堀越高校、本田さんの出身校・青森山田高校は、芦田さんの出身校である慶応義塾女子高校のような難関高校ではありません。進学校とは言えない高校から早慶という私大トップにAO・推薦入試での合格。これがネットでは「不公平」「芸能人枠で入った」「AO・推薦だから簡単だった」などの批判が4月に入ってからも続いています。

大学入試を21年間、取材した私からすれば、「AO・推薦だから簡単」などの批判は20年以上前の古い認識によるもので誤ったもの、と言わざるを得ません。結論から申し上げますと、2020年代現在の「AO・推薦」(正確には総合型選抜・学校推薦型選抜)は、芸能人であろうとなかろうと、高い学力としっかりした事前対策が求められる、一筋縄ではいかない入試となっています。

国がはじめて「推薦入学」を定義したのは1967年度

現状をご説明する前に、まずは「AO・推薦」入試の歴史を振り返ります。文部省(現・文部科学省)が「大学入学者選抜実施要項」(以下、「要項」と略)で「推薦入学」を定義したのは1967年度です。ただし、それ以前、1948年の新制大学開設以降も、学校長の推薦に基づく入試はあったようです。

1983年には「要項」で「多角的な検査のため」小論文や面接を課すことが明記されました。その後、大学入試競争が厳しくなり、一方では大学進学率が上がっていったこともあり、推薦入試も拡大していきます。

そんな中、1988年に始まったのが亜細亜大学の一芸一能入試です。推薦入試の一種で、校長の推薦の他に、「一芸一能」を証明する記録・免状の提出が条件となります。入試は自己推薦書を基にした面接だけ。

この入試で、けん玉日本一、鉄道ファン(全国制覇)、料理名人(魚の三枚おろし)など、ユニークな人材が合格します。芸能人だと、俳優の吉岡秀隆さん、石田ひかりさん、「光GENJI」赤坂晃さんなどが入学しました。