ガーシー氏の姿からにじむ「諸行無常」

現在、UAEのドバイで「逃亡生活」をしている前国会議員のガーシー(東谷義和)容疑者を見ていると、少しだけ「気の毒だな」と思ってしまうことがある。

別にガーシー氏を擁護する気などさらさらない。著名人のプライバシーを暴露したり、名誉を毀損きそんしたり、国会に登院しなかったり、旅券返納命令に対して「なくした」と往生際悪く振る舞ったり……といった所業は、単純に無様で、不誠実である。あげく「自分の母親や家族は関係ない。何もしないでくれ!」などと涙ながらにお願いするダブスタぶりには「どの口が言うか」と感じた人も多いだろう。私もそうだ。

しかしながら「人間がどれほど利己的で、テキトーな生き物か」という視点で冷静に俯瞰ふかんしてみると、ガーシー氏を巡る出来事から気づかされることも少なくない。「人間の性」「業」「諸行無常」といったものを一般論として感じる。だから「気の毒」なのだ。

ガーシー氏が絶好調でメディアの寵児となった頃、同氏には大勢の人が寄ってきた。ところが、逮捕状が出され、国会議員でもなくなり「容疑者」「ただの人」となったことから、現在は擦り寄ってきた人々の大多数がガーシー氏から距離を置いている。ハシゴを外された姿は、実に哀れだ。

「いきなり声をかけてくる人」について考える

最大のハシゴ外しは、旧NHK党の立花孝志氏の動きだろう。立花氏は耳目を集めていたガーシー氏に接近して口説き、参院選に出馬させた。立花氏は「当選したら政党助成金から3億円をガーシー氏に支払う」とも約束していたらしい。完全に「どっちもどっち」案件ではあるものの、ガーシー氏の立場が急激に危うくなるなか、立花氏は党員を守るような姿勢を見せず、「ガーシーの除名は痛くもかゆくもない」と自身のYouTubeチャンネルで述べていた。

秋葉原駅前で街頭演説をする立花孝志氏
秋葉原駅前で街頭演説をする立花孝志氏(写真=Noukei314/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

そりゃそうだ。ガーシー氏が除名処分になっても、斉藤健一郎副党首(当時)を繰り上げで参議院に送り込めたわけだから。この冷淡なやり口にガーシー氏は「あんた、『帰国せんでいい』って俺に言ったやんか。論点をすり替えないでほしい」と恨みタラタラ。

「仲がよい」という触れ込みだったバンドマン、UVERworldのTAKUYAやONE OK ROCKのTakaもガーシー氏の立場が危うくなった途端、だんまりである。ガーシー氏とのトークでアクセス数を稼ぎたいとYouTubeでコラボした芸能人やYouTuberも、関係を「なかったこと」にしている。また、同氏の発言でコタツ記事を量産したウェブメディアも、「ガーシー砲」などとさんざん持ち上げていたが、いまやただの「お騒がせ男」「倫理観のない男」「往生際の悪い男」として消費しているだけで、いよいよPVが稼げなくなったらあっさりと見捨てることだろう。

私は本稿で「それまで特に仲がよかったわけでもないのに、唐突に近づいてくる人」「いきなり声をかけてくる人」について考察していこうと思う。そうした人はなぜ、誰かに声をかけ、相手に何らかのアクションを取らせようとするのか。ガーシー氏の件からは、人間のこの行為についてさまざまな示唆を読み解くことができる。ただ、一般人の実生活とかけ離れ過ぎている面もあるので、まずは私が最近体験した「声をかけられた件」について振り返ってみよう。