世界で戦える力が育っていない現実

確かに30年ほど前までは、偏差値の高い有名大学を出れば、いい人生を歩めたかもしれない。

だが、この30年ほどの間に社会状況は激変した。グローバル化が進み、国境を超えたビジネスがかつてないほど盛んになっている。そのため、日本のビジネスパーソンにも世界水準の競争力が求められるようになった。

そうしたなかでは、自分の専門分野をしっかり学んできていない人や、仕事への情熱を持てない人が活躍することは難しい。また、一流大学を出ていても、英語を話せる人が少ないのも問題だ。英語学科を卒業していても英語を話せない人もいる。

結局、今の日本ではたくさんの人が大学に行っているのに、世界で戦える力が育っていないのである。

一番かわいそうなのは、これまで一生懸命、周囲に言われるまま受験勉強をしてきたのに、社会に出た途端に「役に立たない」と言われてしまう若い人たちである。五月病になったり、うつ症状が出たり、会社をやめたくなったりしても当然だ。

しかし、今までたくさんの大学生や院生を採用してきたからこそ、私には今の若い人たちに何が足りないのか、なぜ元気がないのかがわかる。

やる気と気概がすべて

人間というのは、意識を変えれば必ず変わるはずだと私は信じている。その信念を支えているのは私自身の経験だ。

日本電産ではこれまで多くの人材を鍛え、一流のビジネスパーソンに育ててきた。また自社だけでなく、世界中で赤字経営に陥った会社をM&A(企業の合併・買収)で傘下に入れてきたが、その会社の従業員は解雇せずに、経営を立て直すことをモットーにしてきた。

これまで従業員のクビを切らず、会社再建を100%成功させている。従業員たちのやる気と気概こそがすべてを変えると知っているからだ。

M&A後には企業体質を見直し、利益を生み出す構造を再構築する必要があるが、その際に大事なのは、こちらの方針を押し付けることではない。まずは従業員たちととことん向き合い、理念や方法論をわかってもらう。そのうえで従業員たちが主体となって考え、行動することが何より必要だ。

働く人の意識を変えることさえできれば、会社はよみがえるのである。