景気の先行き危機感が強いことがうかがえる
1月24日、日本電産は2023年3月期、第3四半期の決算を発表し業績予想を下方修正した。それは、今後の世界経済の展開、特に、IT先端分野などにおける設備投資の先行きに黄色信号をともすものだった。
最近、日本電産は、ITデバイスや脱炭素など世界経済の先端分野におけるモータ需要を取り込んで成長した。同社の業績動向は、世界各国の設備投資動向を機敏に反映しやすい。その設備投資の動きに不安があるということは、景気の先行きに暗雲が差しかけない状況ということだ。
2019年1月も日本電産は業績を下方修正した。当時、同社の永守重信会長は「尋常ではない変化が起きた」と述べ、世界経済の先行きに警鐘を鳴らした。その後、中国では過剰な生産能力が深刻化した。また、米中対立の先鋭化によるサプライチェーン混乱の負の影響も高まった。
今回の決算説明資料を確認すると、その時以上に経営陣の先行き危機感は強いようにも見える。それだけ日本電産にとってモータ需要の減少と、コスト増加のインパクトは大きかったと考えられる。同じことは、国内外の主要企業にも当てはまるだろう。それだけに、今回の業績予想下方修正の意味は慎重に検討すべきだ。
「世界シェア80%」デジタル需要で大きく成長
産業構造の変化や経済の成長によって、世界のモータ需要は増えてきた。その中で日本電産は、さまざまなタイプの新しいモータを生み出すことによって成長を遂げた。重要なポイントは、経営トップの指揮の下で、より成長期待の高い分野に、よりスピーディーに経営資源を再配分したことだ。まず、同社のコア・コンピタンス(強み)を世界に示したのは、“精密小型モータ”だった。代表的なものとして、ハードディスクドライブ(HDD)用スピンドルモータで同社は世界シェアの80%を確保している。
同社は精密小型モータの製造技術に磨きをかけ、それを新しい機器などと結合した。その成果として、日本電産は、ファクトリー・オートメーション、データセンタや家電など、産業・家電分野で用いられるモータ分野でも競争力を発揮している。特に、リーマンショック後の世界経済ではデジタル化が加速し、データセンタの建設は増えた。省エネや民生、産業機器分野などでの“IoT=インターネット・オブ・スィングス”の加速も加わり、機器の制御や冷却などモータの用いられる分野は急拡大した。