日本電産の業績は、世界の動向を反映している

その上で、近年の日本電産は、車載用のモータ需要の高まりに商機を見出した。特に、“イーアクスル”の製造能力向上に取り組んだ。イーアクスルとは、電気自動車(EV)に搭載される駆動用モータ、インバーター、減速機などと組み合わせたモジュールをいう。

コロナ禍の発生以降、日本電産は迅速に生産体制を強化し、販売支援策などによって需要が急速に増加した中国のEV需要に対応した。さらに、日本電産はEV関連ユニットなどの生産能力を拡大して品質面だけでなく価格競争力を高めるために、工作機械事業を新しい収益の柱に育てようと買収戦略を強化している。

このようにして、日本電産は能動的に世界経済の先端分野、その中でもかなり上流に近い部分での設備投資需要を取り込む体制を強化してきた。それに伴い、日本電産の現在の業績と、先行きの事業展開予想には、世界の主要企業の設備投資動向がより色濃く反映されるようになっている。

販売数量は増えたが、価格は下押しされている

以上を踏まえたうえで、日本電産の現在の業況などを考察する。まず、足許の業績に関して、連結の売上高と純利益は過去最高を更新した。しかし、営業利益は前年同期の実績を下回った(いずれも第3四半期までの累計)。数量と価格に分けて考えると、イーアクスルなどの販売数量は増えている。ただ、徐々に価格は下押しされたと考えられる。

要因の一つとして、中国などでEV生産体制が急速に強化され、車載用モータ市場の競争が激化したことは大きい。それは産業用など他のモータ分野にも当てはまるはずだ。米欧の利上げによる個人消費(需要)の鈍化の影響も大きかった。

世界経済全体で供給不安が高まったことも大きい。中国では新型コロナウイルスの感染が再拡大し、2022年4月には上海がロックダウンされた。その後も、ゼロコロナ政策は続き、中国の生産活動は一時、大きく落ち込んだ。それは日本電産にとって需要を取りこぼす原因になった。また、ウクライナ危機の発生などによって、エネルギー資源などの価格は上昇し、日本電産のコストは増えた。足許、世界的な供給不安は徐々に和らいでいるものの、全体として日本電産にとって本業の収益を守ることは難しかったと考えられる。