単に「ダメじゃないか」と言うのではなく、なぜできていないのか、その理由をこれまでのあらゆる経験と情報を駆使して部下と一緒に考える。顧客への訪問頻度が足りないのか、知識が足りないのか、あるいは本人の意欲が足りないのか……。「叱り」が部下から見て最終的に意味のあるものになるかどうかは、この「成功させる・成果を挙げさせる」ことができるかどうかにかかっている。

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役立った叱りの約半数が「自分では気づいていないことを気づかせてくれた」/成績が悪い人ほど厳しく叱られて「むしろ意欲が低下」と回答

15年ほど前、この分野の研究を始めたばかりの頃に、保険業界で全国でもトップレベルを争う営業マンを何人も輩出している管理職にインタビューしたことがある。インタビューで私は「優秀な営業マンを育てるポイントは何ですか?」と聞いた。するとその人は、「成功させてやることです」と答えた。

当時は意味がよくわからなかった。「成績を上げさせる方法は?」と聞いたつもりなのに、「成績を上げさせることです」という答えが返ってきたからである。

いまではその意味がよくわかる。最終的には「レベル100の成功」に導くことが目標だとしても、まず「レベル1のステップアップ」になる成功体験を与えることが重要だということだ。その「小さな成功体験」によって部下は「自分にもできるんだ」という自信を持つことができ、次なるステップアップに向けてのモチベーションにもなるということだ。

上司の役割は「正しいことを話す」ことではない。正しいがわかりきっていることを口にしても意味はない。「正しいことをさせる」のが役割である。つまり、成果が挙がっていないと口にするだけでなく、成果を挙げさせること。叱ることで勝手に成果は挙がらない。「成果を挙げさせるために有効だから、叱る」という順序で考える必要がある。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=梅澤 聡 撮影=宇佐見利明)
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