一方、「職場で厳しく叱ることは必要ない」と考えている人たちからは、「大人なので、厳しく叱らなくてもダメな部分を指摘し、具体的な解決策を示すだけでよいと思う(20代男性)」「就職難の中とりあえず入った会社の場合、叱られればすぐ辞めてしまうと思う(20代男性)」「叱ることの上手な人は少ない。反発を招くか、モチベーションの低下しか見たことがない(30代女性)」「反省している者を追い詰める(40代女性)」などの意見があった。
別の設問で、「厳しく叱られた経験をあとで振り返って、意味がない・逆効果だったと感じたことがある」と答えた人は、実に88.7%にのぼっている。
また、「叱る行為の頻度が減ってきている理由は?」という問いには、「厳しく叱ると、部下・後輩がついてこなくなるという雰囲気があるから」「パワハラ・セクハラなどの法制度が厳格化したから」と並んで、「上司の叱る経験や能力が低下したから」という回答がトップ3に入った。叱ることによって生じるデメリットに怯え、「どう叱ったらよいかわからない」という上司の苦悶が伝わってくるような結果である。
2000年ごろから人材育成の技法としてコーチングが脚光を浴び始めたことも要因のひとつとして挙げられるだろう。コーチングの本質は、本人のモチベーションを注視し、育つ環境をつくりだしていくことにある。基本は「褒める」というスタンスを推奨するため、「叱ったり、怒ったりすることは効果的でない」という考え方が必要以上に広まった感がある。
さらに、「上司の叱る経験や能力が低下した」のには、時代的背景の影響もあるように思われる。現在の一般的な企業の中間管理職にあたる40代は、「新人類世代」(1961~70年生まれと定義されることが多い)と呼ばれた世代である。彼らはバブル期に社会人になった世代で、前後の世代に比べて社会的にも厳しさに直面する経験が乏しかった。
部下も上司もその多くが「叱ることも必要だ」と思っている。ところが、うまく叱らないとむしろ逆効果になってしまう部下たち。そして、「叱れない」新人類世代の上司。上司から見れば、受難の時代といえるのかもしれない。