利己的行動の結果人はアリにも劣る

高速道路には走行車線と追い越し車線がある。統計によれば、空いている時間帯にはそれぞれ平均時速80キロ、100キロほどで流れている。ところが速度が30キロ以下の「渋滞」になると逆転し、時速数キロほどだが、走行車線のほうが速くなることがわかっている。なぜこのような逆転現象が起こるのだろうか。

車の数が増えて車間距離が短くなると、速度を維持しようと車線を変更して、追い越し車線に移る車が増える。渋滞になるとその割合は5割を超し、追い越し車線を走る車のほうが多くなってしまう。このため追い越し車線のほうが走行車線より混雑し、速度が低下してしまう。

私の専門はこのような「渋滞学」だ。研究によれば、混雑時には、急いで走るよりもゆっくり走ったほうが、目的地により早く着くこともわかっている。

交通がスムーズに流れている状態から渋滞へ移行する臨界密度は、2車線の場合、統計的には1キロメートルあたり50台。平均時速72キロ、車間距離にして40メートル、約2秒ごとに車が行き交うような状態だ。外からはスムーズに流れているように見えるはずだが、このとき多くのドライバーは「そろそろ危ない」「今のうちに急ごう」と考え、速度を上げて、車間距離を詰めてしまう。

車間距離に余裕がなくなると、前後の車はアクセルやブレーキを頻繁に踏み換えることになる。その結果、本格的な渋滞が発生し、自分たちの車も渋滞に巻き込まれてしまうのだ。こうした臨界状態では車間距離を守ってゆっくり走ったほうが、結果として早く到着できる。