課題はあるが、イケアは急がない
順調にスタートした福岡新宮店。だがイケア・ジャパンとして、さらに家具業界全体で考えると課題も多い。
たとえば少子高齢化への取り組みだ。前出の長島編集長は「昔から家具業界では高齢者需要を取りきれない」と語る。
住宅設備業界では子供が独立した後の夫婦が、一戸建てを処分して都心のマンションに移り住む現象にも目を向ける。
その層に向けて各住設メーカーはコンパクトな設備を提案するが、イケアの大型家具や、自ら持ち帰って組み立てるスタイルが、高齢者に訴求できるかどうか。
大人一人当たりが家具に投じる費用も他の品目に比べて少ない。年間10万円以上を洋服など服飾費に投じても、家具に関しては同7000円にとどまる。
「4000円のスカートは気軽に買う女性も、同額の収納ボックスを買うのはためらってしまう。収納の楽しさを提案するのも私たちの役割です」(佐藤さん)
日本では「断捨離」の本がベストセラーになるほど、片付け下手な人が増えているが、「収納提案」も道半ばだ。
さらにニトリが強化する法人向けビジネスも、イケアではまだ始めたばかり。
一連の課題への取り組みについて、パルムクイストさんはこう説明する。
「どれもビジネスチャンスですが、まずは次の出店となる立川店開業に向けて進みます。現在、私たちイケア・ジャパンは、3つのことに取り組んでいます。
(1)日常生活におけるリーダーになりたい
(2)働く人にとって、よりよい会社
(3)社会に対して、責任を持つ会社
この原則を踏まえながら『世界で一番楽しいのは家』をモットーに生活提案をしていきます。イケアは急がないのです」
スローライフを掲げる巨大家具メーカーは、事業拡大もスローに進めていく。
※すべて雑誌掲載当時
(笹山明浩=撮影)