私は、ボーナス評価期間(1998年12月~翌年11月)の最初の月に、前述の資金運用部の決定を聞いて目いっぱい、JGB(日本国債)先物を売り持ちとし、300億円の利益を上げた。月間だけではなく、年間成績としても、個人成績としてJPモルガン史上最高の利益額だったと思われる。
NYのボスからは「残りの11カ月は会社に来なくていい。海外旅行にでもして遊んでいろ」と言われた。それ以上もうけてもボーナスは増えないから、仕事を続けるのは、ハイリスク・ノーリターンとなるからだ。
当時300億円の純利益を出せば、ボーナスは会長と同額の10億円、それが上限で、それ以上、もうけてもボーナスは増えないと言われた(現在ははるかに高額化しているだろう)。
YCC解除に失敗すれば、日本人は地獄を味わう
しかし私は、未来永劫破られないトレーディング記録を作りたいと、勝負を続けた。結果、残りの11カ月で300億円の利益を全部吐き出してしまった。10億円のボーナスはパーになった(家内には内緒。お金にうるさい人だったら、離婚されていたかもしれない)。
だから資金運用部ショックのことは忘れたくも忘れられない思い出なのだ。
このようなとんでもない相場経験を積み重ね、血へどを3回はいてマーケットの怖さを実感してきた。その怖さを、現場にいなかった植田氏はわからないと思う。
YCC解除の影響を軽く見過ぎている――。日銀の惨状を知りながら植田氏が総裁職を引き受けた理由だと思っている。彼の想定している地獄より、これから来る地獄はとんでもなく怖いものだと思う。
毎度書くが、保険の意味でも米ドルを買っておいた方がいい。日本円が紙くずになる前に。