現役のトレーダー諸氏は荒れた国債相場を知らないからだろう。2000年以降長期金利が2%を超えたことはない。この10年間は基本1%以内の動きでしかなかった。バブル崩壊、ブラックマンデー、資金運用部ショック、タテホショックなどを相場など国債相場が大きく動いた経験が無く、長期金利は1%以下で動くとの思い込みがあるのかもしれない。
しかし長期金利は、動くときは激しく動く。0.5%の長期金利は、日銀の爆買いが支えた官製相場の結果にすぎない。学術的にも名目金利は実質金利+期待インフレ率+倒産確率で決まるとされている。この式から考えても官製相場でなくなった時の名目長期金利が1%にとどまるとは到底思えない。
金利は一気に暴れ出す
1998年の資金運用部ショックを経験していれば、YCCを解除しても長期金利が1%までしか上昇しないと考えるのは大甘な観測であることが分かるだろう。
当時、国債の最大の購入者は資金運用部だった。郵貯や簡保で集めた金の運用機関(正式には勘定)で年間国債発行高の約19%を購入していた。その資金運用部が、資金繰りの関係で国債購入をやめると発表したとたん、長期金利利回りは0.66%から2.4%に跳ね上がった。そのまま行けば10%を超えそうな勢いで、大慌てした大蔵省は、購入停止を止めた。
資金運用部の購入継続のおかげで金利は元に戻ったが、この時いざとなれば、日銀がラストリゾートの購入者として(法律を変えてでも)出てくる、との期待がマーケットにはあった。
翻って現在、そのラストリゾートの日銀自身が年間国債発行量の60%~90%を買い取っている。超大口購入者の日銀が購入を止めたら、または今まで買ってきた保有国債を市場に売り出したら、どれほどの衝撃が走るのだろう。私など身震いが起きてしまう。1%の金利の上昇で終わると考えることは到底できない。
黒田総裁は、資金運用部ショックを大蔵省時代に経験されているだろうし、総裁候補として名前が挙がっていた雨宮副総裁、中曽前副総裁、山口元副総裁も現場で、その動揺ぶりをみてきているはずだ。だからYCC解除がそんな甘っちょろいものではないことを熟知していると思う。この経験も彼らが総裁職を受けなかった大きな理由の一つだと思う。
日本国債の売りで300億円を稼いだが…
私のJPモルガン時代の仕事は「支店長兼在日代表」とともに、プロップトレーディングだった。今でいえば、グローバルマクロのヘッジファンドがやっていることだ。
ある国の景気が良くなると思えば「株を買い、通貨を買い、国債を売る」。景気が悪くなると思えば、逆を行うという仕事だった。ほとんどデリバティブでやるから、ものすごいレバレッジをかけるが、投資するお金は不要。JPモルガンのリスク資産を使っての仕事だ。社内でもごく限られた、経験あるシニアトレーダーだけが許されていた(今はFEDの規制で、その種の仕事はヘッジファンドに移行された)。