ハンガリーに学ぶ、少子化対策の光と影

そもそも少子化対策を語る前提として、国が出生率の目標を掲げ、何がなんでも出産を、と奨励するような社会を、私は決していいと思わない。子どもを持つか持たないか、結婚をするかしないかは個人の意思が尊重されるべきだ。

最近はハンガリーの大胆な少子化対策が注目を集めているが、これにも注意が必要だ。毎日新聞の特派員が各国の少子化対策を取材しまとめた『世界少子化考 子供が増えれば幸せなのか』(毎日新聞出版)は、対策の光と影の二面性をきちんと取材した良書だが、それによると、ハンガリーの少子化対策は比較的中高所得層に手厚く、困窮世帯には適していないと野党は批判している。

そして現在の対策の根底にあるのが、男女が結婚し子どもを産み育てるという伝統的な家族観だという。現在のオルバン政権は右派的政策をとり、LGBTQなど性的マイノリティーに対する厳しい政策で知られる。中・東欧諸国での「人口減のパニック」は反移民・反難民意識へとつながっている側面もある。このように少子化政策はその背景にあるものを理解しなければ、国や社会のために産み育てよという人口政策になりかねない。

大事なことは、一人ひとりを尊重するという前提から出発しているかということだ。

非婚化・非正規化をどう解決していくか

今の日本では子育てや教育費の負担を考えて子どもを持つことを諦めたり、結婚すら遠い存在に感じてしまう若い世代が多いということはさまざまな調査からわかっている。1989年は19.1%だった非正規雇用で働く人たちの割合は、2021年には36.7%と倍増。少子化の要因は「非婚化とその背景にある非正規化」であり、若い世代の経済的不安と将来不安を払拭しない限り少子化対策の実効性は薄いと指摘する専門家は多い。

中央大学の山田教授は、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか』の中で、「大卒でなかったり、地方在住だったり、中小企業勤務や非正規雇用者の置かれた状況や態度、意識などを中心に考えないと、少子化対策どころか少子化の実態を理解することさえもできない」と述べている。

前出の大和総研のレポートをまとめた是枝俊悟さんは、「夫婦とも正規雇用の場合、多額の公費が投入される保育所や育児休業給付金を利用することで、その収入を確保できている面もある。一方、非正規の女性は育休給付金や保育所などの支援を得られていないことが多い」(朝日新聞デジタル 時時刻刻 1月20日)と指摘し、まず支援の対象外にある人たちへの支援の拡充を訴えている。