「もう1人子どもを」と思える重要な要素
2022年11月に大和総研が発表したレポート「希望出生率を実現するために必要な政策」によると、正規雇用の女性の出生率が2010年ごろから上昇している一方で、専業主婦やパートで働く女性たちの出生率は低下傾向にあるという。
このレポートを見ると、仕事と子育ての両立支援策の充実が正規雇用の女性たちの出産を後押ししている一方で、幼児期の子どもを家庭で育てている世帯への支援が十分でないと感じる。さらに正規雇用として収入・雇用の安定が「もう1人」という出産意欲の重要な要素になっていることも推察できる。
「子育て罰」を課す日本の厳しい現状
日本では、このペナルティーの意味をもっと大きく捉えた「子育て罰」という言葉まで生まれている。内閣府の子どもの貧困対策に関する有志者会議のメンバーでもある末冨芳日本大学教授は著書『子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには』(光文社新書)の中で、「子育て罰」を日本が「子どもと子どもを持つ世帯の冷たく厳しい国」である現状を捉えるための概念として紹介している。
「日本の政策は、児童手当などの『現金給付』、教育無償化などの『現物給付』ともに不十分で、子どもと子育てする親の生活を、所得階層にかかわらず苦しめています」と指摘し、政策だけでなく社会や企業も「子育て罰」の拡大に貢献してきたという。
企業は雇用や賃金、昇進などにおいて女性を差別してきたことで母親の就労は不安定化。背景にあるもの、つまり「子育て罰」の正体は、親、特に母親に育児やケアの責任を押し付け、父親の育児参加を許さず、教育費の責任も親だけに負わせてきた、日本社会のありようそのものとしている。
その上で政治の課題として、①場当たり主義的な政治、②少なすぎる子ども・家族への投資、③子どもを差別・分断する制度の3点があると指摘している。
日本の子育てや教育に対する公的支援が主要先進国の中で少ないという指摘は、少子化対策を論じる際に散々言われてきたことである。その根本的な要因は、そもそも子育ても教育も(そして介護も)、本来的には家族がするものである、という自民党を中心とした考え方だ。その裏側には男性が主たる稼ぎ手であり、女性が家事育児をするものという性別役割分業意識が剝がれない澱のようにこびりついている。