「出生率世界最低」の韓国は方針転換
参考になるのが、韓国の少子化対策だ。2021年の合計特殊出生率が世界最低の0.81を記録した背景には日本と同様、若者の非婚化と晩婚化がある。高騰する住居費や厳しい就職状況、経済的状況から働く女性が増えているにもかかわらず、家父長制や性別役割分業意識が根深く残り、家事育児の負担が女性に偏っていることが急激な少子化をもたらしてきた。
深刻さも要因も日本と共通する部分は多いが、実は韓国は2019年頃から少子化に対する考えを大きく変えている。前出の『世界少子化考』に掲載された呉学殊(オウ・ハクスウ)労働政策研究・研修機構統括研究員のインタビューによると、それまでの出産を奨励する政策では出生率は下がる一方で全く改善しなかったという。
そこで2021年から始まった第4次少子化・高齢社会基本計画では、出生率の目標を掲げて出産を奨励するのではなく、生活の質を改善する、社会の根本を変える方向に舵を切った。その根本にあるのは「人権重視」の考え方だと述べている。
その一つが、女性が差別を受けずに働き続け、生活と両立できるようにすることだ。
「女性のWLB(ワーク・ライフ・バランス)を充実させることは子どもを産むための環境づくりではなく、男女差を無くすためです。(中略)全生涯において豊かで暮らしやすい社会づくりをすることで、結果として出生率が上がっていくだろうという考えです」(『世界少子化考』より)
まさに日本も取るべきは、この一人ひとりの人権や生活を尊重した社会づくりではないだろうか。こうしたアプローチは時間がかかるかもしれないが、それこそが少子化の本質的な解決につながると思う。