貯金だけでは「1億円」あっても安心できない

一方、最も不安なのが「貯金を取り崩すだけの老後」です。

たとえ5000万円の現金があっても、毎年300万円ずつ下ろしていったら満17年を迎える前に枯渇します。60歳の人なら76歳までしかもちません。1億円あったとしても34年弱、93歳で枯渇してしまいます。

しかも、現金や預金ではインフレには対抗できません。日本はこれまで、少なくとも1991年から2003年までの13年間はデフレ経済でしたが、それだけのデフレ期を含めてさえもバブル前の1986年(37年前)と比べたら、いろいろなものの値段は2倍くらいにはなっています。つまり、「1億円」が枯渇する34年後の300万円の購買力は、現在の2分の1かそれ以下になっている可能性が極めて高いのです。

ということは、貯金を取り崩すだけの老後なんて、「ジリ貧」でしかないのです。

「安定した老後」を3タイプでシミュレーションする

では、運用能力を身につけることで、どのような老後の設計ができるのか。シミュレーションをしてみましょう。

地味で平穏な生活を好む「ジミーさん」と、普通の生活で大満足な「ノーマルさん」、そして、老後も優雅で派手な生活を送りたい「ハデーさん」の三つのタイプです。

【タイプ1】生活費が月額30万円のジミーさんの場合
お金の計算をする笑顔の老夫婦
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです

ジミーさんの場合、リタイア後の「満足する生活費」を「月額30万円」とします。少々多いと思われるかもしれませんが、普段の生活費に加え、住居の修繕費や介護費、その他にも突発的な出費も考慮に入れると、月額30万円でも地味なほうです。

ジミーさんは、65歳まで勤め上げ、収入は年金に移行します。年金は世帯で月額20万円。この時点で、退職金を合わせた金融資産が3000万円ほどあるとします。

ただし、生活費30万円に対して年金は20万円ですから、あと10万円が不足します。そこで、この不足分を「運用」によって賄うのです。

ジミーさんの長期的に達成可能な運用能力は税引き後で「年3%」だとします。私が推奨する「年10%」に比べ、かなり控えめな値です。

①リタイア後の「満足する生活費」の月額:30万円
②運用利回りと受け取る利益の額:年率3%×3000万円=年90万円(月額7万5000円)
③世帯が受け取れる年金の月額:20万円
収支:収入27万5000円-支出30万円=マイナス2万5000円

ということで、目標額に月2万5000円ほど足りないということになりますが、このくらいの金額なら運用以外の「副業」で賄えるでしょう。これでぴったり収支が合いました。財政赤字を垂れ流しっぱなしの日本政府にも見習ってほしいところです(笑)。

もちろん、運用能力を高める、あるいは定年時の資産額を上げることで、副業なしで収支を合わせることもできるでしょう。

ちなみにもし運用も副業もしていなければ、金融資産は25年で底をつきます。90歳の時点で「老後破産」です。

【タイプ2】生活費が月額40万円のノーマルさんの場合
リビングルームで並んで座るシニアカップル
写真=iStock.com/Yagi-Studio
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「老後を青春時代にするために、もう少しお金をつかいたい」という方もいるでしょう。そういう方を「ノーマルさん」と呼び、ひと月の生活費を40万円とします。毎月、旅行などのちょっとした贅沢ができる金額ですね。

ノーマルさんが受け取れる年金の額は世帯で月額25万円で、退職金を合わせた金融資産が4500万円ほどあるとします。株式投資による運用をしていなければ、金融資産はやはり25年で底をつきます。90歳の時点で、ジミーさんと仲良く「老後破産」です。

ノーマルさんの運用能力は「年5%」とします。ジミーさんは地味な生活で満足しますので、運用利回りも低めに(3%で)設定しましたが、ノーマルさんはノーマルな水準として5%としました。すると、以下のような計算となります。

①リタイア後の「満足する生活費」の月額:40万円
②運用利回りと受け取る利益の額:年率5%×4500万円=年225万円(月額約19万円)
③世帯が受け取れる年金の月額:25万円
収支:収入44万円-支出40万円=プラス4万円

ノーマルさんの場合、副業をしなくてもめでたく財政収支はプラスです(日本政府よ、見ならえ! 笑)。

ただ、副業をしないと何もやることがなくなり、「ヒマだ病」に取りつかれてしまいます。なんらかの副業をして収入を増やせば、1年に一度はちょっと贅沢な海外旅行も楽しめることでしょう。