どんなに下手な刺青でも馬鹿にするのはマナー違反

絵柄は彫り師のもとにある原画のリストから選ばれる。戦後は幽霊や女の生首などゲテモノ系が流行したが、今はほとんど需要がないらしい。オリジナルの絵を頼むこともできるが、作画能力の低い彫り師もいるから、充分チェックしたほうがいい。

ただし、どんな下手な刺青でも、当人の目の前で馬鹿にするのはマナー違反。内心、「俺の刺青のほうがかっこいい」と思っても、ヤクザたちはそれを決して口にしない。当人に罪はないし、二度と消せないものだからだ。

刺青を入れている手元
写真=iStock.com/zamrznutitonovi
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下手な駆け出しの彫り師に肌を貸すのも男伊達である。原画をコピー機で拡大し、からだに当てながらそれをトレースする。墨をり、それを使うと、あの刺青特有の藍色になるのだが、最近では専用の塗料があって、発色もかなり鮮やかだ。彫る面積にもよるが、完成までには数カ月から数年かかる。合計数百万円の費用がかかることもあり、親分や組織が代金を援助してくれるところもあるらしい。

最近では、組内に“お抱え彫り師”を置くところが増えている。刺青に興味のある若い衆に道具を買い与え、他の若い衆の刺青を彫らせるわけである。多少絵柄は下手でも、かなりの費用削減になる。なかには、プロに匹敵する画力のある若い衆もいて、「タダで彫ってやる」といわれたことは一度や二度ではない。

余談だが、彫り師になるのは元ヤクザが多い。それだけ現代では、刺青がヤクザの代名詞になっているということだろう。また、彫り師ほどヤクザ社会の事情通はいないという。あまりの痛さに泣きを入れた親分の話などは抱腹絶倒ほうふくぜっとうだ。

刺青の“実験”を受けて失神した若い衆

とある関東の若手組長は、自分で若い衆の刺青を彫るようになった。

もともと絵心があって、墨絵や書、水彩画では飽きたらず、ついに刺青を趣味にしたのだ。今ではかなりの腕前で、他団体の若い衆からの依頼もあるらしいが、最初に現場を見せてもらったときは、若い衆に心から同情した。なにせ針の加減が分からないから、若い衆の肌で実験をするのだ。

「てめぇこの野郎、じっとしてやがれ」
「は……はい、でもオヤジ……なんか変じゃないですか。先生のときより、ずいぶん痛いような」
「ガタガタいうんじゃねぇよ。おとなしくしねぇと、ドラえもん彫るぞ!」
「いや、それは……すいません!」

組長は電気針の回転数、針先の出具合や角度、スピードなどをさまざまに変えて実験した。ついに失神してしまったが、それでも、ピクリともしない若い衆の綺麗な肌に、どんどん針をぶっ刺していった。