作法はあるが「ほとんど趣味に近い」

親分のなかには、断指など無意味だという人も少なくない。

「指ちぎって、それを金にできるわけじゃなし、そんなことしてもなんの解決にもならない。うちは指詰めは厳禁。失敗したって指さえ詰めればいいや、なんて甘く考えることにもなるからな」(独立組織組長)

断指の正式な作法には諸説あるが、本来は自ら爪のついた無傷の指を切り落とし、手当を済ます前にその指を持っていかねばならないらしい。相手が断指を確認し、「病院に行ってこい」といわれて初めて、傷口の治療ができる。

落とすのは一般的には左手の小指で、欠損しても問題の少ない部分から切り落とす。正式には2回目以降も爪がついた部分でなければならないが、そのあたりはケース・バイ・ケースのようで、再び指を詰める際は、左の小指をさらに切り落とすのが一般的だろう。ただ、指であればいいわけで、どの指でも問題はない。右左交互に切り落としたり、左手の指がほとんどない人もいる。

実をいえば、断指はほとんど趣味に近い。自分のからだに傷をつけ、「不自由なからだ」になるのは、大げさで、劇場型気質を多分に持つヤクザらしいパフォーマンスなのだ。なにかというと進んで指を切りたがる人もいる。こうなれば完全にマニアの域で、精神構造はSMプレイのそれに近い。

ホルマリン漬けの小指が20本以上並び…

切り落とした小指はかなりグロテスクだ。おまけに相当SMチックである。

ある事務所には、ホルマリン漬けの小指が20本以上あった。写真を撮影するために並べてみると、ちょっとしたホラー映画より迫力がある。また、指のない手も相当な視覚的インパクトで、素人相手の恐喝の道具にもなるという。

鈴木智彦『ヤクザ2000人に会いました!』(宝島社)
鈴木智彦『ヤクザ2000人に会いました!』(宝島社)

事あるごとに小指のない手をひけらかすチンピラに出会うと、「アタタ……」と心が寒くなるが、小指の欠損はヤクザの代名詞のひとつといっていい。そのため、ヤクザの入国を厳しく制限するアメリカでは、パスポートで暴力団関係者をはねるほか、入管で刺青いれずみと小指の欠損をチェックする。

こういった場面で活躍するのが付け指で、その他、親族の結婚式などで使ったりするという。近年、義肢ぎしを作っている医療機器メーカーが事故で指を失った人のために「付け指」を発売したが、顧客のほとんどはヤクザや元ヤクザだったらしい。そこまでして隠すことはないと思うが、それだけイメージが強いのかもしれない。

相手から差し出された指は、本来それなりの供養をし、寺などの許可をもらってしかるべき場所に埋める。だが、ほとんどは適当に処理され、燃えるゴミとして出すこともある。

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