幼児期の虐待経験が、重い精神疾患や社会的孤立などの「生きづらさ」の原因となることがある。精神保健福祉士の植原亮太さんは、生活保護支援の現場でそうした事例に接し、著書『ルポ 虐待サバイバー』(集英社新書)にまとめている。本書より、パニック障害に苦しむ26歳女性の例を紹介しよう――。
カウンセラーを信用できない26歳女性
次に紹介するのは、パニック障害を発症した女性である。
彼女は両親から虐待を受けて生き延びてきたが、幼少期から児童相談所の介入があり、被虐待児に対する支援などを受けてきた。ところが、それがかえって彼女の支援者・専門家・治療者に対する不信感につながっていた。
「話しても、あんまり信じてもらえないかもしれないんですけど。それに、専門家やカウンセラーの方って、ちょっと苦手で……あんまり信用できないというか。すみません、批判しているわけではないんです。なんか、決めつけられてしまうのが苦手というか、いろいろとやってくださるのは、ありがたいんですけど……すみません」
そう話しているのは、中山優子さん(26歳)である。
まるで怯える小動物のように体を震わせ、視線をそらし、聞き取れないくらいの声で小さく言って、謝る必要もないのに謝っていた。
私が彼女の話を聞くことになったのは、彼女の担当ケースワーカーからの依頼だった。
生活保護を受けるようになってしばらく経つ。療養指導も就労指導も、なかなか実らなかった。それで、私が関わることになった。
「子どものころのことって、いまの状況に影響しますか?」
と彼女が、ぽつりと私に聞いた。
「ええ、影響することもあると思います」
彼女は、私の反応をうかがうように話しだした。