母親の目を盗みゴミ箱から食べ物をあさる日々

「優子! ちょっとこい! 本当にばかだね! 何度言ったらわかるんだ! 捨てられたいのか! こんなやつに食わせる飯なんかない!」
「ごめんなさい……」

なにがきっかけで急に怒りだすのかわからない母親に怯える日々。それが彼女の人生初期の記憶だった。

母親は急に怒りだし、当時5歳の優子ちゃんを叩き、体を押し倒し、引きずり回した。そして、彼女が自分の手で用意した昼食をゴミ箱に捨てた。お腹が空いて耐えられなかった彼女は、母親の目を盗んで、こっそりゴミ箱をあさり、それを食べた。

廃棄物
写真=iStock.com/guss95
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当時、彼女は母親と弟と3人で公営住宅に住んでいた。日常的に母親からの暴力を受けており、いつもその顔色をうかがっていた。母親を見ていると「見てくんな」と言われて叩かれた。拳が目に直撃して腫れぼったい瞼になった。すると今度は、「目つきが悪い」と言われてビンタをされた。

子どもが幼稚園に通っている様子がない、深夜にひとりで歩いている、お酒を買いにきた子どもがいる……。そんな数件の通報が児童相談所に寄せられていた。それで、ある日、彼女の自宅に児童相談所の職員が訪問してきた。その光景を、割とはっきり覚えているという。

児童相談所の職員が自宅を訪れるも…

「ごめんください」

母親が玄関を開けると、柔和そうな女性が立っていた。その後ろに若い男性がいた。

不機嫌そうに母親が、

「なんですか」と言うと、扉の外に立つ女性が答えた。とてもやさしそうな声をしていた。

「いろいろと子育てのことで大変だと思って。少しでも力になれることはないかしら?」

母親は面倒くさそうにしていた。

「大丈夫です、間にあってるんで」

「お母さんひとりで小さな子どもをふたりも育てるのは大変でしょ?」と、その女性は言い、部屋のなかを覗き込みながら「お子さんの顔、見せてもらうことできる?」とたずねた。

「見せるから、帰ってください」

母親に玄関までくるように言われて、彼女は顔をだした。

「あら、その目、どうしたの? 腫れているじゃない?」女性職員が言った。

「きょうだい喧嘩です」と、きっぱり言いきった母親だったが、3歳になったばかりの弟がつくれるような目の痣ではなかった。

なにかを察したのだろう。女性職員が母親に向かって、とっさに言った。

「イライラしちゃうこととか、ない?」
「なんなんですか! 人の家庭に首を突っ込んできて! 迷惑なんですけど! もういいです!」

母親は急に怒りだした。その勢いに気圧されて、

「じゃあ、また失礼させていただきますね」と言って、職員たちは帰っていった。

玄関の扉が閉まった。