病名がつかない

妹が来てから数日経過した1月末、妹も母親の症状に首をかしげていた。

「自分でご飯は食べられて、掃除も手伝える。自分の足でしっかり歩き、庭で犬と遊ぶ。入浴も自分でできる。パジャマも自分で着られる。本当に認知症なの?」

母親が年末に受けた検査結果は、すべて異常なしや年齢相当だった。しかし、それでも精神科の医師は、「症状から考えると、認知症でしょう」と告げ、「認知症8割、統合失調症・うつ病2割です。このままいくと、基本的生活能力が落ちていきます。介護保険を十分に利用しながら生活しましょう」とアドバイスされる。

続いて、「薬を使うと、不安・妄想は減るが、元気はなくなる。だが薬を使わないと、不安や妄想が強くなり、わがままや元気、活発さは増える。認知機能の低下は、どちらにしても進んでいく」と説明。

宮畑さんたちは本やネットなどで精神疾患について調べてみたが、母親には該当するものが多すぎてお手上げ状態。「おおむねうつ病か何かで、認知症も少しあるのではないか」と思っていた宮畑さんたちは、間違っていなかったようだ。

精神科の担当医は、「普通の認知症は、朝のほうが状態が良くて、夜になるとだんだんと不安になる」と言ったが、母親の場合は全く逆だった。だが、「認知症は本当に百人百様で、決まった形はない」とも言われ、もう少し様子を見ることに。

歩道を歩くシニア女性の後ろ姿
写真=iStock.com/SetsukoN
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しかし、信州の精神科に通い続けて少しも回復の兆しはない。しびれを切らした宮畑さんは、東京で評判の高い認知症専門医に母親をみせることにした。するとその専門医だけがはっきり言った。

「これは認知症ではありません。精神科に行ったほうが良い」。宮畑さんはすぐにその医師に精神科を紹介してもらい、1カ月に1回、信州から東京まで通うことにした。