コロナ禍に、結婚相談所で出会った5歳年上の教員の男性と結婚した看護師の30代女性。新婚生活が始まると、夫は気に入らないことがあると不機嫌になるなど、当初は些細なことで喧嘩が絶えず、家に帰るのも苦痛なほど。2人の関係を改善させたのは、女性の母親だった。だが、その母親は体調を崩し、女性は遠距離介護を始めるものの、仕事と介護の両立に疲れ果てしまった――。
泣いている妊婦さん
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この連載では、「ダブルケア」の事例を紹介していく。「ダブルケア」とは、子育てと介護が同時期に発生する状態をいう。子育てはその両親、介護はその親族が行うのが一般的だが、両方の負担がたった1人に集中していることが少なくない。そのたった1人の生活は、肉体的にも精神的にも過酷だが、それは、誰にでも起こり得ることである。取材事例を通じて、ダブルケアに備える方法や、乗り越えるヒントを探っていきたい。

無口で気難しい父親と働き者で倹約家の母親

関東在住の鈴木広香さん(30代・既婚)は、高速道路関係の仕事に従事する父親と、歯科衛生士をする母親が35歳の時にお見合いで出会い、約1年後に生まれた。

転勤が多かった父親は、鈴木さんが小学校に上がった後、単身赴任で不在にすることが増えた。結婚を機に専業主婦になった母親は、鈴木さんが中学生ぐらいになると、時間を有効に使おうと、パートで働くように。

「母は3姉妹の真ん中として貧しい家で育ちました。歯科衛生士になった後、上京して住み込みで働き、実家に仕送りをしていたと聞いています。夜はスナックでアルバイトをしていたこともあり、スナックのママが持たせてくれるタクシー代を握りしめたまま走って帰宅するような倹約家でした。働くことが大好きで、結婚後はお金に困っているわけでもないのに働いていました。65歳を過ぎてからも、『雇ってもらえるなら働きたい』と言って掃除の仕事をしていました」

両親の夫婦仲は悪くなかったようだ。父親は無口で気難しかったが、結婚記念日や母親の誕生日を忘れたことはなく、蘭の鉢植えを買ってきて部屋中を花でいっぱいにしたことも。給料明細を開けずに母親に渡し、家計管理を全て任せていたことからも、全幅の信頼を寄せていた。一人娘である鈴木さんに対しても、休みの日は動物園や遊園地、公園によく連れて行ってくれた。

一方、母親は、一人娘である鈴木さんを厳しくしつけた。そのため成長するにつれ、母娘で口論になることもしばしば。やがて大学生になり、上京して一人暮らしを始めると、実家への電話は欠かさなかったが、あまり帰省はしなくなる。鈴木さんは大学で看護師と保健師の資格を取得すると、卒業後は大学病院のNICU、市立病院の脳神経外科、呼吸器外科、総合病院の地域包括ケア病棟などで勤務した。