遠距離介護

ところが2020年後半、母親には時々「あれ?」と思うことが起きていた。

10月ごろには自転車だけでなく、歩行中にも転倒を繰り返し、頚部の痛みを訴える。近所の整形外科を受診し、電気療法を受けたり湿布などの貼り薬で様子をみたりするが改善せず。

12月までは、マイホーム購入を検討していた鈴木さんに、電話で的確なアドバイスをしていた母親だったが、親族の葬儀のため、8カ月ぶりに帰省し、母親と再会すると、母親は杖歩行になっていた。一緒に帰省した夫とともに、母親がひどく痩せていることに驚き、聞くと、実際10キロも体重が減っていた。

そして2021年1月。母親は、いつも使っていたLINE電話の操作ができなくなってしまった。心配になった鈴木さんは、週1で中部地方に帰省し、料理・掃除などの家事を手伝うように。この頃母親は、家の中でも伝い歩きをしていた。

看護師としてフルタイムで働いていた鈴木さんは、当然夜勤もあった。夜勤明けに帰宅すると、すぐにたまっている家事と夫の食事の支度を済ませ、実家へ持っていく作り置きの料理をして、2時間程仮眠。夕方それらを車に積み込み、高速を運転して帰省。家事が全くできない父親や、両親が飼っている犬の世話をして、翌日の同じくらいの時間に自宅へ帰るという生活を始めた。

「今思うと、遠距離介護という二重生活は、同居介護の何倍も大変だと思います。身体的にも精神的にも過酷で、『きょうだいがいたら良かったのに……』と何度も思いました」

聴講する医療従事者
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

2021年2月になると、母親は手が震え始め、お茶を入れる際にこぼし、固定電話も使えなくなっていた。机の端など、バランスが悪いところに物を置こうとしたり、頻繁に携帯電話の置き忘れをしたり、買い物やお金の管理ができなくなった。

さらに、長年疎遠だった叔母(母の妹)に頻回に電話をし、急にランチに誘うなど、行動がますます予測不能なものに。鈴木さんは遠距離介護に疲れ果てていた。一方、夫は妻の健康や道中の安全が心配だった。鈴木さんは夫と、自分の両親を近くに呼び寄せる計画を立て始めた。