猪狩氏はルノアールに自信がないなら開き直って値上げしましょう、と社長に提案。10月に値上げすると4月から9月までの半期の売上を10月の1カ月で上回った。お客さんはルノアールブランドを信頼してくれていると実感し、それならお客さんに何ができるだろうと考えた。ビルの建て替えで退店する際に支払われる資金もあり、全店改装に踏み切った。

「厳しい時に救ってくれたのもルノアールというブランドでした。ルノアールへの思いが強いというのは、そういうことなんです」

71歳での社長就任は「創業者が私に与えた使命」

2022年11月1日、千葉駅東口に喫茶室ルノアールをオープンした。千葉県への出店は10年ぶり。ビジネス客に加え、かつて都内のルノアールを利用していた近隣住民も顧客に想定している。都心近県出店のテストケースと考えていたが、売上は好調という。

「条件さえあえば、どんどんルノアールを出店していきたい。同時に業績の悪いところは閉めないといけないので、開けたり閉めたりしながらです。とにかくルノアールというブランドを劣化させたくない。それだけは頑固に押し通したいと思います」

猪狩氏が初めて配属されたのは高田馬場にある喫茶室ルノアール(現在は閉店)
撮影=西田香織
猪狩氏が初めて配属されたのは高田馬場にある喫茶室ルノアール(現在は閉店)。朝9時から夜11時まで、最長10カ月休みなく働いたという。「一生懸命働いていっぱい稼ぐ時代でした」

最後に、71歳で社長という立場についたことについて尋ねた。

「今回はある意味、会社の危機ですので、老体に鞭打って頑張っています。あと20年は猶予があるはずだった後継者の育成もしなくてはならず、しんどい話ではありますが、創業者が私に与えた使命かな、と思っています」

大株主として小宮山家は残るが、私の思いは創業者小宮山正九郎から叱られないようにすること、と猪狩氏。コロナ禍、突然の社長交代と続き、社内も動揺したのでは、と聞いてみた。

「コロナ禍でベーカリーという新事業を立ち上げたことが、一致団結でやっていこうという空気につながりました。今回の社長退任も同じように、ここはみんなで頑張っていかねばという空気につながっていると思います。私が年寄りであるがゆえに、年寄りを助けなくてはいけないという結束感ができたかなと勝手に思っています」

率直な猪狩氏の柔らかな自信が伝わってきた。

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