コロナ禍の逆風に「逆に攻め所かもしれない」

「ルノアールは都心にあるビジネスマン向けの喫茶店。家賃や人件費を払いながらですから、店を開ければ開けるほど赤字になる。水道の蛇口を回して水を流すように、キャッシュが流れていく状況を考えると、これはえらいことだなと感じました」

耐えるしかないと業績に見合った経費や人の削減を地味に進めていたが、一向に収束しないコロナ禍に「耐えるだけではいかんな、逆に攻め所かもしれない」と思うようになったという。

「財務内容が多少よかったこともあって金融機関の協力を得ることができ、設備投資をするタイミングではないかと思いました。出店や新たな事業構築をすることで、先行きを案じて沈んでいる社内の空気を変えられるのではないかと思ったのです。前任社長もまだ在職中でしたが、一つの新しい目標を持つ事で意志の統一を図ることができるのではないかと思い、新しいベーカリー事業を始めました」

“大番頭”として初代社長時代から銀座ルノアールを支え、「私がルノアールに一番思い入れがある」と胸を張る
撮影=西田香織
“大番頭”として初代社長時代から銀座ルノアールを支え、「私がルノアールに一番思い入れがある」と胸を張る

それが「BAKERY HINATA」。店内で粉から生地を仕込む「スクラッチ製法」を採用している。2021年9月にさいたま市の国道17号沿いに1号店を開き、12月に神奈川県座間市、22年8月に同大和市、12月2日に東京都国分寺市と急ピッチで出店している。

「地元密着」で大躍進したコメダ珈琲

「ベーカリーは職人さんも必要で、コストもかかりますし、店内で一から作っているので大変です。でも『難しい』は『おいしい』の裏返しになると、あえてチャレンジしました」

都心型のルノアールとは違い、郊外への出店。コロナ禍を経てのリスクヘッジ戦略でもある。そして、カフェ業界の中で郊外型といえばコメダ珈琲だ。

経営するコメダホールディングスの決算説明資料(2022年2月期)によると、売上高は333億円で営業利益は73億円、コロナ禍前の20年2月期と比べるとそれぞれ106.7%、92.7%。郊外型に加え、店舗の9割以上がフランチャイズというビジネスモデルも奏功している。

「コメダさんはコロナ禍を予想して郊外型の戦略をとってきたわけではなく、地元密着というのはもともとの戦略でした。たくさんのメニューを提供し、かしこまらず、入りやすい店という戦略が当たったわけです」と猪狩氏。