快適空間にお金をもらい、コーヒーはサービス

コメダの原点が「地元密着」なら、ルノアールの原点は「快適空間」だ。席と席との間隔が広く、隣の声が聞こえにくいから商談に向いている。しかも紙ではなく布のおしぼりを出し、コーヒーがなくなると日本茶が出てくる。これは猪狩氏が入社した時にはすでに定番となっていたサービスで、「ごゆっくり」という店からのメッセージだそうだ。

「都会のオアシス」ともいわれる、ゆったりとした内装になったのは必然的だったという。「初代社長が新規出店しようとしたときに、銀行からのお金の工面がうまくいかなかった。広い場所を借りたけれど設備にお金をかけられず、少ないイスやテーブルをばらばらと配置したのが、言ってみれば快適空間につながっているんです」

創業当時の店内の様子
画像提供=銀座ルノアール
創業当時の店内の様子
現在の店内の様子
画像提供=銀座ルノアール
現在の店内の様子

高サービスで居心地が良くなれば、回転率は下がる。経営効率が低いことは、素人でも想像がつく。が、猪狩氏はそれは変えないと言い切る。「昔ながらのうちのやり方は貫いていかないといけないし、創業者の思いもそこにある」と言うのだ。

「銀座の店を改装するとき、初代社長が『コーヒーもサンドウィッチも何も出さない』と言い出したことがありました。ゆっくりして、テーブルチャージを置いていってもらえばいいんだよ、と。『それでは家賃も払えない』と侃侃諤諤かんかんがくがくやりあいました。でもチャージをもらって、コーヒーはサービス。それが今のルノアールのスタイルになっていて、ルノアールというブランドなんです」と猪狩氏は言う。

「創業の地」でシャトレーゼをオープン

ただし、銀座ルノアールという会社はそれだけで持ち堪えられている状況にはない。喫茶室ルノアール依存型でなく会社を継続させるための施策を考えていて、その一つがベーカリー。もう一つが2022年2月に締結した洋菓子店「シャトレーゼ」とのフランチャイズ契約だと話す。

「他社のブランドで商売していいのかと思い悩みました。でもシャトレーゼさんは勢いがある。そういう会社のブランド力を借りてみようと思いました」