敗北の代わりにアリが得たもの
その年の6月28日、アリはある意味でフレージャー戦の敗北を打ち消すくらいの大きな勝利を得た。アメリカ合衆国の最高裁判所がアリの有罪判決を覆す判決を下したのだ。これによりアリは晴れて自由の身になった(それまでは保釈金を払っての仮釈放で、最高裁で有罪が決まればただちに収監される身だった)。これまでアリを非難していた者たちは、この判決で完全に大義名分を失った。
逆に多くのアメリカ人がこの判決を支持した。その頃、ベトナム戦争は完全に泥沼化し、アメリカ世論もその戦争に対して批判的な声が多数を占めるようになっていた。たとえタイトルを失おうとも自らの信念に基づくままに徴兵を拒否したアリの勇気を、多くのアメリカ人が評価したのだ。かつてアメリカの敵とも見做された男は、今や新しい英雄となりつつあった。
しかし最高裁も国家も、アリに無罪を与え、パスポートも返却したが、タイトルまでは返してはくれなかった。それは自力で奪い返すしかなかったのだ。そしてここからアリの苦闘が始まる。