アポロ11号の月面着陸と同じ視聴数
1971年3月8日、ニューヨークのMSGで世紀の一戦が行なわれた。
当日の体重は27歳のフレージャーが205ポンド2分の1(約93.2kg)、29歳のアリが215ポンド(約97.5kg)だった。定員1万9500人のMSGには2万455人の観客が入り、会場の外には入場できない人が1000人以上いた。150ドルのリングサイド席には1000ドル以上の闇値がついた。135万2951ドルというゲート収入は、これまで同会場で行なわれたボクシング興行の倍以上の額だった。
会場に入った記者だけでも621人に上り、その中には28ヵ国から来た外国人記者が113人もいた。いかにこの試合が世界中から注目を集めていたのかがわかる。
ソ連の政府機関紙「イズベスチャ」も大きな関心を抱いていた。ソ連はベトナム戦争に反対したアリを評価し、「アメリカの資本主義に抵抗する革命的英雄」と誉めたたえていた。またアラブの週刊誌『アル・ウスブ・アル・アラビ』でも試合前に特集が組まれた。もちろん日本の新聞にも試合前に記事が載った。
この試合は世界35カ国で衛星生中継され、推定で3億人が観たと言われている。この数字は2年前にアポロ11号が人類史上初めて月面に着陸した中継を観た人数に並ぶものだった。試合は日本でも東京12チャンネル(現・テレビ東京)によって中継された。
余談だが、当時、中学3年生だった筆者は学校を勝手に早退して、テレビ観戦した。アメリカからはるか離れた東洋の中学生にまで関心を抱かせた大試合だったのだ。クローズド・サーキットとテレビ中継の興行収入は3000万ドル近かったと言われている。
戦前の予想
会場にはフランク・シナトラ、ダスティン・ホフマン、マルチェロ・マストロヤンニ、バート・ランカスター、ダイアナ・ロスといった有名スターや歌手たち、ニューヨーク市長や上院議員やケネディ家の人々、ノーマン・メイラー、ウィリアム・サローヤンといった著名作家など、数多くのセレブが詰めかけた。
フレージャーのファンの多くは白人であり、アリのファンの多くは黒人であった。しかし白人にもアリのファンは少なくなく、黒人の中にもフレージャーを応援するものも少なくなかった。
試合前の賭け率は6―5でフレージャーが有利と出ていた。元世界チャンピオンのジョー・ルイスはフレージャーが勝つだろうと言った。しかしアリの勝利を予測する専門家も少なくなかった。