大学の体育会の監督やコーチといえばチーム強化最優先で、部員に厳しい練習をさせる、というイメージがある。だが、長野県の松本大学野球部の37歳監督はちがう。ご法度のバイトも許し、辞めたいと言われれば引き止めない。そうした考えの背景には、5年間プロ選手としてプレーした後にサラリーマンとして過ごした時の教訓がある。フリーランスライターの清水岳志さんが現地で取材した――。(文中一部敬称略)
撮影=清水岳志
撮影=清水岳志
   松本大学野球部監督の清野友二さん

辞めたい、と言い出した主将に監督はどう対応したか

「4年生のキャプテンが『春が終わったら辞めたい』って言うんですよ」

大学野球の関甲新学生野球連盟1部に所属する松本大学野球部監督の清野友二(37歳)を訪ねると、こうあっけらかんと言う。

松本大は、甲子園に何度も出場している長野県の名門・松商学園高のグループで2002年に創立された。雄大な北アルプスが眼前に望める田園の中にキャンパスがある。

「辞めたい」と言ってきたキャプテンは、今春のリーグ戦で3番を打ち、Aクラスのリーグ4位(10チーム中)に押し上げた原動力。秋のリーグ戦はこのキャプテン不在で明らかに戦力ダウンの状態で迎えた。そもそも4年生は12人が辞めて登録は4人だけだった。緊急事態といっていい。それでも3年生の新キャプテンのもと、結果的には秋の公式戦も4位を維持することができた。

件のキャプテンは、昨秋の新チーム発足時、3年までレギュラーではなかった選手だ。高校でも補欠で大学入学時、とても試合に出せるレベルではなかったが、地道に力をつけてきて、4年では勝負どころでホームランを打つまでになった。

「見ていて泣きそうになりました。ここまで成長したかって。それが、春のリーグ戦を終えて引退させてください、って(苦笑)。でも、本人が納得できたなら、それはそれでいいかなと」

指揮官の思考は、地方特有の緩い体育会の“ゆったり放任主義”なのかと思ったら、確固たる信念があった。

「何年かやってくると選手も自分の立ち位置がわかります。本音、理想を言えは最後まで続けてほしいです。でも、ゲームに出られないのがはっきりしてるのに続けるのもね。そんな部員には『辞めろ』って、言っちゃうんです。『やりたいことがあるなら、早く、そっちをやった方がいい』と」

実際に以前、歌手になりたいという部員がいて、松本で歌手はニーズがないので埼玉へ行け、と快く送り出した、と笑う。

「目的もなく属していても意味がない。やりたいことに方向転換すべき」

そこには監督自身のセカンドキャリアの経験則があった。