「年を取れば丸くなる」は間違い

脳の摂理からいっても、好々爺イメージより、キレやすくなるほうが常態に近いということがわかるだろう。「年をとれば、人間が丸くなり、穏やかになる」というのは、間違った思い込みだ。

まずは、こうした「円熟幻想」から考えなおす必要がありそうである。

和田秀樹『70歳80歳を笑顔で超える生き方』(さくら舎)
和田秀樹『70歳80歳を笑顔で超える生き方』(さくら舎)

好々爺というのは、もともと老人が怒りやすい存在であるため、周囲が気をつかって年配者を立てたり、あがめたり、いたわったりする風潮からつくられた概念で、いわば人間の知恵ではないかと思う。

好々爺のイメージにも三つのパターンがあって、一つは、年をとって、世の中を達観した状態の人。いわゆる哲人タイプで、なにごとにも悟りきったかのように自分なりの解決法で対処していく。宗教者のごとき諦観の念に到達して、あきらめもよくなる。

これは、いわゆる「考え無精」だ。前頭葉が萎縮してくると、あれこれ考えるのがめんどうになるが、その一つのあらわれである。

あるいは、社会における人間の知恵で、周囲からいたわられたり、あがめられたりしていると、つねに自己愛が満たされた環境にひたることができ、いわゆる「衣食足りて礼節を知る」状態を享受して、あまりイライラしなくてもすむタイプ。

人生のなかでずっと成功者でいたような人は、実際に年をとってから角がとれて丸くなる傾向がある。

認知症の人がいつもニコニコしている理由

好々爺の三つ目のタイプは、赤瀬川原平さんが提唱した「老人力」の境地。これは、前頭葉だけではなく、脳全体の機能がすっかり衰えてきたケースである。

たとえば、認知症のおじいさんがいつもニコニコしているのは、嫌なことを忘れてしまっているからで、イライラしたり、怒ったりする必要もなくなった結果、好々爺になる。

認知症までいかなくても、本格的に老いて、怒る元気もなくなったり、物忘れがひどくなったりするレベルでも、好々爺イメージに重なってくる。

さて、好々爺を自任するあなたは、どのタイプだろうか。

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