思考が短絡的になって詐欺にも引っ掛かる

高齢者がお世辞をわりと真に受けてしまうのも、前頭葉が萎縮し、疑う能力が落ちてきたことを示している。

前述のように、前頭葉には思考、意欲、感情、理性、性格など、人間が人間らしく生きていくための要素が詰まっている。いろいろな可能性を考える部位でもあるので、そこが萎縮してくると、どうしても思考が短絡的になり、ものごとを疑うことができにくくなる。

だから、いとも簡単に振り込め詐欺などにひっかかったりもする。

困ったことに、自分がだまされていることに気づかず、またそれを認めようとしなくなる。だから、同じことを何度もくり返してしまう。

若い人の場合、前頭葉の機能が活発だから、一つの問題に対しても、すぐにいくつもソリューション、つまり解決方法を思いつくことができる。

『リア王』に見る脳機能の衰え

シェークスピアの『リア王』の物語は、前頭葉の機能が落ちた老人の典型例だ。

気まぐれでものごとを深く考えられない。いろいろな角度から見られない。癇癪持ちで怒りだしたら止まらない。そのくせ、信頼すべきところで猜疑心が強くなったり、周囲から自分を立ててもらわないと不機嫌になったりする。

このドラマには、前頭葉の機能が衰えた老人の特徴を示すエピソードがいたるところに登場する。

リア王は年老いて、3人の娘に国を分け与えて退位しようとした。その条件として出したのが、自分に対する愛情を示すことだった。

末娘は父親への真の愛情から、姉たちのような甘言を弄することができなかったため、激怒したリア王は、彼女を勘当し、彼女をかばった忠臣まで追放してしまう。

完全にものごとを客観的に見られなくなり、感情の抑制がきかなくなった状態だが、本人にその自覚がなく、自分が絶対に正しいと思い込んでいる。

ところが、上の2人の娘たちは、領土をもらったとたん父親をないがしろにし、追放してしまう。結局、自分をもっとも愛していたのは末娘だったと悟るが、上の娘たちとの戦いに破れて、末娘は殺され、とらわれの身となったリア王も、失意のなかで悶死する。

まったく救いのないドラマだが、現実の世界でも、年をとってくると、チヤホヤされなかったり、自分を立ててもらえなかったりすることを嫌がるようになるという、いわゆる「リア王現象」が顕著になってきている。

若いころはもとより、30代、40代ぐらいまでは、まわりからなれなれしい言葉、いわゆるタメ口をきかれても平気だったのに、脳が老化してくると、自分を立ててもらえないと感じて、カッとなる傾向が出てくる。

キレやすくなるだけでなく、序列にこだわるようになるのも、前頭葉老化の特徴なのだ。